「比準要素数1の会社」外しスキームを総則6項で否認する裁決事例
いわゆる「比準要素数1の会社※1」に該当して約34億円と評価されるべき自社株式を、相続開始の直前に事業年度を変更して配当金を支払い、評価額を約21億円に軽減させた株価対策について、金沢国税不服審判所は令和6年3月25日に、租税負担の軽減を意図したものであるため総則6項※2により約40億円で否認されるべきとの判断を示しました。
本事案は平成29年4月に容態が悪化した被相続人(同年7月に死亡)の相続人が、決算期末である同年12月までに被相続人が死亡した場合には、比準要素数1の会社として高めに評価されるところ、決算期を5月に変更して5月中に配当を支払うことにより、6月以降に死亡しても直前期の無配当が解消されるため、通常の会社として評価されることを意図した対策です。
無配当と赤字が継続する比準要素数1の会社が、配当を支払うことによりこれを回避する対策は一般的であり、そのことだけで否認されるわけではありません。本事案においては、相続直前に駆け込みで事業年度を変更しており、更に下記の一連の事情が問題視されたものと思われます。
① 株価対策を提案した税理士法人を紹介した取引銀行における交渉履歴に、相続人における租税回避の意図が明確に記録されていたこと。
② 税務調査において、臨時株主総会議事録の作成者は不明であり、データは残っていないと述べている(その後審判所には相続人が作成したと供述内容を変えている)。
③ 臨時株主総会議事録はバックデートにより作成されたと推測されている。
以上のことから、本事案と同様に事業年度変更と配当金支払いによる比準要素数1の会社外しを実行した場合においても、臨時株主総会議事録をきちんと作成し、租税回避の意図が記録された書類が存在しなかった場合に、同じ結論になったかは疑問が残ります。
本事案は相続対策を講じたために、比準要素数1の会社としての評価額約34億円を超える約40億円の時価純資産価額で課税されるというやぶ蛇の結果となっています。銀行の交渉履歴には相続人が否認リスクを承知した上でチャレンジしたと記載されていたようですが、時価純資産価額で課税されるリスクまでは考えていなかったかもしれません。
※1 類似業種比準方式で評価する場合の3つの比準要素である「配当金額」、「利益金額」および「純資産価額(簿価)」のうち直前期末の比準要素のいずれか2つがゼロであり、かつ、直前々期末の比準要素のいずれか2つ以上がゼロである会社をいいます。
※2 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する(財産評価基本通達総則6項)。
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