租税負担を軽減する行為がないと総則6項で否認することはできない
2024年8月28日、東京高裁は、第1審の東京地裁の更正処分取消判決を不服とする税務署の主張を退け、控訴棄却の判決を下しました(国側敗訴で確定)。
この事案※1は、総則6項を適用して通達評価額を上回る額を相続財産の価額としてなされた税務署の更正処分を争うものです。評価が争われた非上場株式は、相続開始の2週間前に基本合意が締結され、相続開始の1ヶ月後にその合意価格どおりに相続人により譲渡されました。通達評価額(類似業種比準価額)は一株当たり約8千円、基本合意価格は約10万5千円でした。税務署は、この非上場株式につき、専門家による鑑定評価を実施し、その評価額(約8万円)により更正処分を行いました。第1審の地裁はこの更正処分を違法とし、納税者を勝たせました。
ここでの争点は、特定の納税者についてのみ通達評価額によらないことが許されるのか、つまり租税法の一般原則である平等原則に違反するかどうかということです。
2022年の最高裁の示した基準※2によると、この争点は「実質的な租税負担の公平に反する事情」があるか否かによって判断されます。「事情」がない場合には、平等原則に違反して更正処分は違法となりますが、ある場合には適法となり、総則6項による否認が認められます。
この「事情」の有無の判断には、形式的な基準はなく、個々の事案ごと、その事案に即して判断することとされています(事例判断)。
このような事例判断の仕方については、先の最高裁判決がリーディングケースとなります。すなわち、一定の行為がされた結果、通達評価額によると客観的に租税負担が著しく軽減されることを前提に、その行為が租税負担の軽減をも意図して行われていれば、「実質的な租税負担の公平に反する事情」があると判断されます※3。
東京高裁は、本事案につき、租税負担を減免する行為がないため、意図を判断するまでもなく「事情」がないとしました。すなわち、株式譲渡に関する基本合意を締結する行為は、生存中に売買契約を締結するならば、通達評価額を大きく上回る代金額が相続財産の価額となって相続税の負担を増大させる可能性を有するものであるから、相続税の負担を減少させる効果がない、と判断しました。
このように総則6項による否認の裁判においては、今後、平等原則違反が争われます。具体的には「実質的な租税負担の公平に反する事情」があるかないかで決まりますが、この事例判断においては、個々の事案ごとに、①租税負担減免「行為」があること、②租税負担減免の「意図」があること、③その行為によって通達評価額による租税負担が「著しく」軽減されたこと、について判断されることになります。いずれの立証責任も課税庁にあることから、今後の税務調査においてはこれらの事実に焦点が当てられることになるでしょう。
※1 UAPレポート「非上場株式の相続税評価で総則6項の適用が認められなかった地裁判決」参照
※2 UAPレポート「財産評価基本通達総則6項による否認に係る最高裁判決」参照
※3 最高裁判所調査官による次の解説参照。山本拓「最高裁時の判例」ジュリスト2023年3月号(№1581)・95頁。
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