2024年6月12日

種類株式の譲渡価額は株価算定書の評価額で良いとする事前照会事例

 種類株式の税務上の評価については、特定の3類型に係る相続税評価方法が文書回答事例として公表されているだけで、法人税や所得税において、明確な評価の定めはありません。このような状況において、日本公認会計士協会が国税庁に照会し、2024年3月28日に文書回答という形で、企業価値評価専門会社の株価算定書による評価額を法人税法における時価として取り扱って良い旨を明確にしました※1

 具体的には、ベンチャーキャピタルが3年前に資本関係等のないスタートアップX社から割り当てられた配当優先付無議決権株式を、企業価値評価専門会社が算出した評価額によりX社に譲渡することが、税務上、低額譲渡等に該当することはないかという照会内容です。 

 照会者も説明している通り「純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた取引価額は、一般に合理的なものとして是認される」ため、株価算定書を入手するまでもなく、低額譲渡等には該当しないとも考えられますが、「純然たる第三者間」とも言い切れないことから、保守的に株価算定書を入手したものと思われます。

 注目すべきは照会の前提として、株価算定書の評価は、日本公認会計士協会から公表されている各種研究報告に基づき算定されたということです。経営研究調査会研究報告第53号「種類株式の評価事例」によると、無議決配当優先株式は、モンテカルロ・シミュレーションを採用するとされており、本照会事案でも、同方法により評価された可能性があります。また、「種類株式の評価事例」では、転換権付配当優先株式はDCF法とモンテカルロ・シミュレーションの併用により、また、みなし清算条項付種類株式はブラック・ショールズ式により評価するとされており、今後の評価実務では、これらの方法によることが主流になると考えられます。

 この照会事案について、私の疑問点は下記の通りです。

①3年前の割当価額(1株57千円)はどのようにして決めたのだろう。今回の評価額(1株63~66千円)と整合性はとれているのだろうか。

②「種類株式の評価事例」によると、無議決配当優先株式の評価パラメーターのうち変数は期待収益率(割引率)だけとされているが、これだけで割当時と譲渡時の価額の差額を説明できるものだろうか。

③今後同様の事案で、当事者間で合意した価額と、株価算定書の評価額が異なってしまったとき、取引当事者はどうするのだろうか。

2024年6月12日 (担当:平野和俊)

1

※1 買戻条件の付された種類株式について買戻しが行われた場合における譲渡法人の税務上の取扱いについて(株価算定書の価額を参酌して決定された価額に基づき買戻しが行われた場合)

ページトップへ