雑所得の範囲の明確化 300万円基準から帳簿書類の保存基準へ通達修正
先のUAPレポートでお伝えしたとおり、雑所得の範囲を明確化する所得税基本通達の改正案がパブリックコメントにかけられていましたが、2022年10月7日に意見公募の結果が公表され、「収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得」とする取り扱いが修正され、「その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得に該当する」こととされました。
修正の理由として、国税庁は、事業所得者には帳簿保存義務があること、帳簿保存があれば営利性・継続性等の事業性があると考えられることをあげています。
この修正により、今後は、給与所得者の副業等の収入金額が 300 万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば、原則として、事業所得に区分されることとなります。その結果、副業等における損失は、損益通算の対象となり、給与所得等の他の所得と通算することが可能になります。
ただし、帳簿書類を保存している場合であっても、①その所得の収入金額が僅少と認められる場合や②その所得を得る活動に営利性が認められない場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断することとされているので注意が必要です。①については、例えば、その所得の収入金額が、概ね3年程度、300 万円以下で主たる収入に対する割合が 10%未満の場合には僅少と認められる場合に該当します。また、②については、その所得が例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取組(=増収や黒字化に向けた営業活動等)を実施していない場合は、営利性が認められない場合に該当します※1。
今回の通達改正のきっかけは、事業規模ではない副業の赤字を給与所得等と損益通算する節税策の横行を問題視したものです。こうした節税を防止するためには、副業などの所得区分について、損益通算が認められていない雑所得に区分する必要があったのです。
ところで、雑所得においては、なぜ赤字の損益通算が認められていないのでしょうか。その理由は、雑所得の必要経費の支出内容には、家事関連費的な支出が多いこと、必要経費がほとんどかからないか、またはかかっても収入を上回ることのないものが大部分であるため、損益通算の実益が少ないことと説明されています※2。
1968年の税制改正前までは、雑所得の損失の控除については、特に制限がなく、他の所得との通算が認められていましたが、この仕組みを国会議員が政治献金収入の申告において濫用したため、現行制度の取り扱いに改められた経緯があります※3。
こうした経緯があったにせよ、半世紀前の1968年当時は、雑所得に区分された業務のほとんどが、必要経費のあまり発生しないものであったようです。そうであれば、雑所得の赤字について損益通算を認めない取り扱いは合理的だと考えられます。
しかし、経済状況が大きく変わった現在では、サラリーマンの副業のように、小規模ながら必要経費がそれなりに発生する業務が一般的になっています。そうすると、先述した損益通算を認めない理由は、もはや合理的なものではないといえるでしょう。
帳簿保存の有無という技術的な判定により所得区分をねじ曲げるより、雑所得の金額の計算上生じた損失についての損益通算を認める取り扱いに戻すほうが、今後増加が見込まれる「シェアリングエコノミー等の新分野の経済活動」にふさわしい税制となるのではないでしょうか?
※1 以上につき、国税庁「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」を参照。
※2 吉村典久「所得控除と応能負担原則」金子宏編『所得課税の研究』245 頁(有斐閣、1991)
※3 落合博実「永田町「ノー税天国」の奇怪 政治家と国税当局の攻防15年」アエラ5(44) (通号238)6~11頁(1992年11月3日)
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