老人ホームへの入居と居住用特例~要介護認定のタイミングに注意~
有料老人ホーム等に入居して、人生の晩年を過ごす人が増えてきています。税務上、老人ホーム等に入居すると、生活の本拠が自宅から老人ホームに移ることから、居住用財産の有利な取り扱いが原則としてできなくなりますが、特例によっては、老人ホーム入居後自宅に戻らなくても例外的に適用が認められるものがあります。
実務上、よく使われる自宅に係る特例は、①居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例、②被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例及び③小規模宅地等の特例の3つなので、これらについて整理します。
①の3000万円控除特例については、老人ホームに入居したことによる例外的な取り扱いは定められていません。それゆえ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに自宅を売却しないと、3000万円控除等をすることはできません。
②相続空き家の3000万控除の特例と③小規模宅地等の特例については、近年の改正により、老人ホームに入居した後に死亡した場合でも、一定の要件を満たすことにより、居住しなくなった自宅について特例が適用できるよう手当されています。
すなわち、②の相続空き家特例において、要介護認定を受け老人ホームに入居するなどの要件を満たす場合には「従前居住の用」に供されていたとして、特例の適用が認められます。
③の小規模宅地等の特例においても同様で、要介護認定等を受けた人が自宅を離れて老人ホームに入居した場合には、自宅の敷地が「居住の用」に供されていた宅地等に含まれることとされ、他の一定の要件をみたすことによって80%の評価減が認められます。
②と③で大きく異なるのは、要介護認定等をいつまでに受けていなければいけないのか、その判定時期です。②の空き家特例では、要介護認定等は老人ホームに入居する直前において受けていることが必要です(措通35-9の2)。一方、③の小規模特例では、その被相続人の相続開始の直前において認定等を受けていたかにより判定することとされています(措通69の4-7の2)。
つまり、相続した空き家を死亡後に売却して3000万円控除を受けるためには、まず、要介護認定等を受け、その後に老人ホームに入居しなくてはなりません。ただし、老人ホーム入居時までに要介護認定や要支援認定を受けていない場合であっても、介護予防・生活支援サービス事業の対象者を判定する「基本チェックリスト※1」に該当していたときには、他の要件を満たす限り、相続空き家の3000万円控除が可能です。
これに対して、自宅敷地につき死亡後に80%の評価減を受けるためには、老人ホームの入居時までではなく、死ぬまでに要介護認定等を受けておけばよいことになります。
有料老人ホーム等において要介護認定等を受けていない人は、新規入居者全体の6.2~11.0%、死亡退去者全体の1.3~3.1%であるとのとデータもあります※2。
相続空き家の3000万円特別控除の特例の目的は、所有者死亡による耐震性がない古い空き家の発生を抑制することです。その目的からすると、相続発生直後の自宅に居住者がいなければ十分です。また、税目が違うとはいえ、同じ居住用家屋に係る特例で、要介護認定のタイミングによって「居住用」か否かの判断が分かれる取り扱いは、納税者の混乱を招きます。相続空き家の特例も、死亡時までに要介護認定を受けていれば、小規模宅地同様、適用を認める取り扱いに統一されることが望まれます。
※1 基本チェックリストについては、各自治体の介護保険関係webベージにおける説明を参照。
※2 令和2年度老人保健健康増進等事業「高齢者向け住まいにおける運営実態の多様化に関する実態調査研究」77頁及び177頁における施設類型ごとの「自立・認定なし」の割合を参照。
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