業績低迷が長期化するときの株価上昇リスクへの対応
業種にもよりますが、コロナ不況による一時的な業績悪化により、株式の相続税評価額が大きく下落する会社が増えています。こうした状況は、事業承継を計画している会社オーナーにとって、後継者に株式を有利に贈与する絶好の機会になります。しかし、赤字が長期化すると、予想に反して株価が大きく上昇してしまうことがあるため注意が必要です。
不況時の株式評価額の上昇は、純資産価額が類似業種比準価額よりも高い会社を前提として、評価対象会社が、直近の3期以上のあいだ配当をしてきておらず、「3期連続赤字」または「2期連続赤字であり2期前に非常に大きな赤字を計上している※1」などの場合に、比準要素数1の会社に該当することによって生じる現象です。
比準要素数1の会社とは、類似業種比準方式で評価する場合の3つの比準要素である1株当たりの「配当金額」、「利益金額」及び「純資産価額(簿価)」のうち直前期末の比準要素のいずれか2つがゼロであり、かつ、直前々期末の比準要素のいずれか2つ以上がゼロである会社をいいます。
比準要素数1の会社になってしまうと、上場会社と似ていないためその株価との比準ができません。結果的に、類似業種比準方式による評価が取れなくなり、「純資産価額」か「純資産価額×0.75+類似業種比準価額×0.25」のいずれか小さな金額で評価されます。そうすると、純資産価額が類似業種比準価額よりも高い会社においては、相続税評価額が大幅に上昇します。
そのデメリットとして、計画的な贈与ができなくなるだけでなく、万が一会社オーナーに相続が発生すると、想定外の相続税の納付が必要になる事態も考えられます。
悪影響を避けるための対策として考えられるのは、少額でも良いので継続して配当することです。
比準要素数1の会社とは、配当と利益の両方がゼロ以下となっている状態が継続している会社なので、毎年または最低でも2年に1回※2の配当を続けていれば回避することができます。
ここで注意すべきなのは、配当が少なすぎて、端数を切り捨てた結果、1株当たりの配当がゼロと算定されることです。比準要素数1の会社の判定は、1株当たりの各比準要素の金額により行いますから、配当を出していても、端数処理を行って0円となる場合には、その要素は0となります※3。
何らかの理由で配当が出せない場合には、万が一の相続に備えて、事業承継計画書(=特例承継計画書)を作成して都道府県知事に提出しておくことが望まれます。提出することによる不利益は特に無く、まさかのときに相続税の納税猶予を受ける権利だけは手に入れることができるからです※4。
コロナによる業績不振が長期化する業種の多くの会社においては、事業承継計画の見直しと再検討が必要になります。
※1 1株当たりの利益金額は、直前期末以前1年間における課税所得金額を基礎に計算しますが、納税義務者の選択により、直前期末以前2年間の金額の合計額の2分の1に相当する金額を基に計算した金額とすることができます。直前々期末における算定も同様です。
※2 1株当たりの配当金額は、直前期末以前2年間における配当金額の合計額の2分の1に相当する金額を基礎に計算します。直前々期末における算定も同様です。
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