「金融口座情報の自動的交換」における実質的支配者とは誰のことか
OECDが主導する「金融口座情報の自動的交換」が2017年からいよいよ始まります。「金融口座情報の自動的交換」とは、タックスヘイブンなど国外の金融機関を悪用した脱税・租税回避を防止するために、非居住者(個人・事業体)として各国に保有されている金融口座情報を、税務当局間でほぼ網羅的に自動交換するものです。
それでは、外国法人を設立して、名目的な取締役を就任させておけば、オーナーの居住地国に金融口座情報は報告されないのでしょうか?もちろんそんな訳にはいきません。事業実態のない資産運用を目的とした法人などの事業体は、「受動的非金融機関事業体(Passive NFE)」と呼ばれ、その実質的支配者(Controlling person)の居住地国に外国法人の金融口座情報が報告されます。例えば日本人がスイスに法人を設立して、そのスイス法人が香港の金融機関で資産運用している場合には、香港の金融機関における口座情報が香港の税務当局を経由して、実質的支配者の居住地国である日本の税務当局に自動的に報告されます。
次に、実質的支配者(Controlling person)とは誰のことを指すのでしょうか。OECDが発行している『The CRS Implementation Handbook』によると、実質的支配者(Controlling persons)とは、事業体を支配する自然人(the natural person(s) who exercises control over the Entity)のことを言い、例えば25%超の議決権を所有する者をいうとされています。従いまして、単独で25%超の議決権を所有する自然人が存在すればその者が明らかに実質的支配者でしょうが、そういう自然人が存在しない場合において、金融機関が実質的支配者を確認することは容易ではありません。また、日本の一般社団法人や一般財団法人のような持分の定めのない法人は、出資者が存在しませんから、その確認は更に難しくなります。
海外の口座情報もすべて丸裸にと喧伝されている「金融口座情報の自動的交換」ですが、資産運用会社の口座情報を、オーナー居住地の税務当局が完全に捕捉することは難しいのかもしれません。
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