非上場株式を信託したときの同族株主判定
非上場株式を信託すると、その株式に係る議決権は所有者である受託者に移転します。非上場株式の評価の上では、同族株主の存否及びその株主が同族株主か否か等により、原則的評価方式か配当還元方式の適用関係が決まります。
この場合の同族株主とは、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数の割合により判定されます。例えば、100%の株式を保有するオーナーがそのうちの50%超の株式につき自益信託の設定をしたときには、受託者が50%超の議決権を保有することとなるため、オーナー自身は少数株主となり、残りの株式について配当還元方式で評価されることになります。
しかし、通常は、受託者に自由に議決権を行使させることはなく(そんなことをすれば受託者に会社が乗っ取られてしまいます。)、議決権の指図権を自ら保持し又は子供などの後継者に保持させ、受託者にはその指図どおりに議決権を行使する義務を負わせます。この場合の同族株主の判定はどうなるのでしょうか?
まず、上記の同族関係者の範囲については、法人税法上の同族会社であるかどうかを判定する場合の同族関係者の範囲と同じとされています(評基通188(1))。
法人税法において同族会社に該当するかどうかを議決権の数によって判定するに当たり、個人又は法人との間でその個人又は法人の意思と「同一の内容の議決権を行使することに同意している者」がある場合には、その同意している者が有する議決権はその個人又は法人が有するものとみなすこととされています(法令4⑥)。
この「同一の内容の議決権を行使することに同意している者」かどうかは、契約、合意等により、個人又は法人との間でその個人又は法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している事実があるかどうかにより判定されます(法基通1-3-7)。
そして、議決権の指図権の存在はその事実があるものと取り扱われています。すなわち、この指図権の定めは「株式の所有が信託形態で行われている場合で、委託者、受託者又は他の受益者の意思又は指図により議決権を行使する旨の合意又は信託行為における定めがあるとき」に該当し、受託者の有する議決権は、指図権者が有する議決権とみなされます。
先の例で仮にオーナーが議決権の指図権を持っているとすると、100%の議決権をオーナーが保持していることとなり、原則的評価によってその株式を評価することになります。
なお、単に過去の株主総会等において同一内容の議決権行使を行ってきた事実があることや、出資、人事・雇用関係、資金、技術、取引等において緊密な関係があることのみをもっては、個人等の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者とはなりません(法基通1-3-7注書)。なので、受託者が事実上議決権を行使しないこととしている場合には、原則として、「同意している者」にはならないと解されます。
そうすると、譲渡益課税を発生させずに議決権を分散させ、非上場株式の評価減による節税ができそうです。
しかし、課税庁による信託の実態判断により、評基通の総則6項が適用され、委託者であるオーナーがその受託株式に係る議決権を有しているものと認定される可能性は大きいと考えられます。法令通達上、形式的には可能とされる節税策ですが、議決権を支配していると認定されるリスクには十分注意を払う必要がありそうです。
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