2016年5月31日

馬券訴訟を例に附帯税を考える

 コンピューターソフトを利用せず、独自のノウハウにより継続的に購入した馬券の払戻金が一時所得か雑所得かで争われている訴訟は、平成28年4月21日東京高裁において納税者の逆転勝訴となりました(国側も最高裁に上告の申し立てを行い係争中)。本訴訟では、払戻金の所得区分及びはずれ馬券の必要経費性が争点となっていますが、ここでは少し見方を変えて、本訴訟で明らかになった税務署側の課税処分を基に、特に附帯税について考えてみたいと思います。

 東京地裁の判決文によると納税者は平成17年から平成22年までの間に馬券の購入により総額で5億7000万円弱の利益を上げながら、平成21年分まで所得税の確定申告を行っておらず、平成23年に馬券の払戻金を雑所得とした期限後申告書を提出しましたが、税務署から雑所得ではなく一時所得として更正処分を受けています。税務署側の処分を踏まえた納税額(地方税及びその附帯税は含まれません)を一覧にすると次の通りです。

 馬券の払戻金が、はずれ馬券の購入代金を総収入金額から控除できない一時所得と認定されたことにより、実質的な儲けが5億7000万円弱であるところに結果として約66%に相当する所得税約3億7000万円が課されるとともに、ペナルティとしての附帯税(無申告加算税・過少申告加算税・延滞税)が更に合計で約1億円近く課税されています。今回附帯税が大きくなった理由は、納税額が大きいためというのはもちろんですが、このケースでは納税者が給与所得者であり、年末調整のみで確定申告をしていなかったということも理由の一つです。仮に医療費控除による税額還附又は株式の譲渡損失の繰り越し等の目的があって、馬券の払戻金を除いた所得につき所得税の確定申告書が期限内に提出されていたとした場合の税額は、次のようになります。

 期限内申告を行うことにより、無申告加算税が5%税率の低い過少申告加算税に替わること及び延滞税の計算が各期限内申告書の提出期限からそれぞれ1年で打ち切りになることにより、附帯税が全体で約3600万円少なくなります。

 この場合気になるのが、馬券の払戻金収入を計上せずに確定申告書を提出することが、所得の一部をつまんで申告する、いわゆる「つまみ申告」として重加算税の対象にならないかどうかです※。この点については、確定申告書を単に提出することをもって重加算税を課す際の判断基準とされる「当初から所得を過少に申告するとの意図を外部からうかがい得るような特段の行為」に該当するとは言えず、無申告であった本件で重加算税が課せられていないこととの平仄を考えても重加算税の対象とはならないと考えられます。

 なお、過去の判決では申告漏れ額がきわめて過大な場合や、資料の廃棄、顧問税理士に対する所得の秘匿等を要素として過少に申告する意図を認定され重加算税が課された事例もありますので、大きな課税がされる可能性がある場合の申告について慎重に検討した方が良いことや、所得隠しありきの申告や無申告を避けた方が良いのは言うまでもありません。

 ※重加算税とは、所得や税額計算の全部または一部を仮装又は隠ぺいし、その仮装・隠ぺいしたところに基づいて申告書を提出した場合等に課されるペナルティで、重加算税の対象となると過少申告加算税よりも税率の高い重加算税が課税され、延滞税も1年で打ち切られることなく計算されます。

2016年5月31日 (担当:吉田暁弘)

 

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