未払賞与と所得拡大税制の当初申告要件
会社の業績が良い事業年度末に従業員に対して決算賞与を支給することがあります。その事業年度に実際に賞与を支給しない場合でも、一定の要件※1を満たせば翌事業年度の支給額を未払賞与としてその事業年度に損金算入することができます。その分その事業年度の利益が減少し、納税額も減ります。
決算賞与を支給することでその事業年度の給与支給額が増加する場合には、所得拡大税制の適用が可能かどうかも検討します。一定の要件※2を満たす場合には、雇用者給与等支給増加額の10%相当額(以下、「税額控除額」といいます。)をその事業年度の法人税額から控除することができます。損金算入した未払賞与は、所得拡大税制の計算の基礎に含まれるため、適用を受ける場合には有利に働きます。従って、さらに納税額を減らすことができます。
後日、税務調査が入り未払賞与の損金算入時期を巡って問題となることがあります。税務調査の結果否認されると、損金算入時期は実際に賞与を支給した事業年度(たいてい翌事業年度)にずれます。その結果、否認された事業年度において納税額は増加し、損金算入される翌事業年度に納税額は減少します。これは単なる期間損益の計上時期(期ズレ)の問題であり、たとえ否認されたとしても特に心情的に大きな問題はないかも知れません。
一方、所得拡大税制は単に期ズレの問題では終わりません。所得拡大税制には当初申告要件及び適用額の制限があり、否認された未払賞与に対応する税額控除額を翌事業年度にそのまま取り戻すことができないためです。
所得拡大税制は、その適用を受けるためには確定申告書、修正申告書又は更正請求書にその控除に関する明細書(法人税申告書別表六(二十一)、以下「明細書」といいます。)の添付が必要です(当初申告要件)。そしてその控除額は、確定申告書に添付された明細書の「雇用者給与等支給増加額」欄に記載されている金額を基礎として計算した金額が限度となります(適用額の制限)。
ここでポイントとなるのは、所得拡大税制は法令により①当初申告要件があること、②「雇用者給与等支給増加額」の計算に含まれる給与等の額はその事業年度の損金の額に算入されるものに限られること、③当初の確定申告書に添付された明細書の「雇用者給与等支給増加額」欄に記載された金額は、その金額が限度とされ後日の更正の請求時や修正申告時において増額させることはできない、ということです。
以上を踏まえて、具体例を考えてみましょう。例えば、前々期に計上した未払賞与が税務調査により否認され、前期にその未払賞与を損金算入することになった場合を想定します。
前々期は当然に未払賞与を所得拡大税制の計算に含められなくなります。というのも、「雇用者給与等支給増加額」の計算の基礎となる給与等の額は損金算入されるものに限られるためです(ポイント②)。従って、適用要件を満たすかどうか再度計算しなおすことになります。その結果、そもそも所得拡大税制の適用を受けられなくなるかもしれません。
それでは前期はどのような影響を受けるでしょうか。前期の確定申告書に明細書を添付しているかどうかで変わります。
前期に明細書を添付している場合には、当初申告要件を満たしている(ポイント①)ため、前期も変わらず所得拡大税制の適用を受けることができます。しかし、明細書の「雇用者給与等支給増加額」欄の金額を増額することはできません(ポイント③)から、損金算入された未払賞与を加算して税額控除額を再計算し、増額することはできません。
一方、前期に明細書を添付していない場合には、当初申告要件を満たさない(ポイント①)ため、所得拡大税制の適用は受けられません。損金算入時期が当初より適切であれば、前期に所得拡大税制の適用を受けられたかもしれませんが、当初の確定申告書に明細書の添付がないため、税額控除の恩恵を全く受けられない結果となります。
このように未払賞与を計上して所得拡大税制の適用を受けている場合には、税務調査によりその損金算入時期の修正に迫られたとき、場合によっては所得拡大税制の恩恵を全く受けられない顛末を迎えることがあります。期ズレでは片付けられない影響を受けることがありますので未払賞与を損金算入する場合には、要件を確実に満たすよう細心の注意を払いましょう。

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