2015年2月26日

結婚・子育て資金の一括贈与特例は相続税対策になるか?

 平成27年度税制改正により、結婚・出産の後押しを目的として、結婚・子育て資金の一括贈与特例が創設されました。

 制度の概要は次のとおりです。

①贈与者は、親や祖父母。受贈者は20歳~50歳の子・孫
②親等は、子や孫名義の金融機関口座を開設し、結婚・子育て資金を一括して拠出する。
③一括拠出資金について、子・孫ごとに1,000万円を非課税とする。
④挙式費用や不妊治療費等のために子や孫は資金を払い出す。
⑤子や孫が50歳になった日に口座は終了し、使い残し資金に対しては、贈与税を課税。
⑥相続税回避を防止するため、贈与者死亡時の残高を相続財産に加算する。
⑦相続税の計算をする場合、孫等への遺贈に係る相続税額の2割加算の対象としない。

   
 この制度の創設により、資金を贈与するときに使える有利な特例は、①相続時精算課税制度、②住宅資金贈与制度、③教育資金一括贈与制度及び④本制度、の合計4つになりました。これらの特徴は次の表のとおりです。


 【資金を贈与する場合の特例】

        相続時精算課税贈与 住宅資金贈与 教育資金一括贈与 結婚子育て資金一括贈与
贈与者 60歳以上の親・祖父母 親・祖父母 親・祖父母 親・祖父母
受贈者 20歳以上の推定相続人・孫 20歳以上の子・孫 30歳未満の子・孫 20歳~50歳未満の子・孫
資金使途 制限なし 住宅取得資金 教育資金 結婚・子育て資金
非課税限度額 2,500万円 最大3,000万円 1,500万円 1,000万円
使い残し資金 贈与税課税 贈与税課税 贈与税課税
贈与者死亡時の相続税課税 あり なし なし あり
孫への2割加算 あり なし
期限 ~H31.6.30 H25.4.1~H31.3.31 H27.4.1~H31.3.31


 以上の特徴を踏まえ、この新制度について、相続税対策に利用できるか?という観点から検討します。

 ②住宅資金贈与制度及び③教育資金一括贈与制度では、一度贈与を実行すると、贈与者死亡時に資金が残っていたとしても、その資金を相続財産に加算して相続税を課するということはしません。他方、①相続時精算課税制度では贈与した額の全額が、また、④結婚・子育て資金一括贈与では死亡時の残額が、相続財産に加算され、相続税がかかります。

 したがって、精算課税贈与と結婚・子育て資金贈与は節税策としては使い勝手がよくありません。

 ところで、孫が相続により財産を取得したときは、世代飛ばしの不公平を緩和するため、相続税の税額が2割加算されることになっています。相続時精算課税で孫へ贈与したあと、贈与者死亡により相続税を計算するときにも2割加算は同様になされますが、結婚・子育て資金贈与ではこの2割加算を行わないよう制度が作られています。つまり、孫への遺贈をしたときに比べると2割加算の分だけ有利になりますが、最高税率で課税されたとしても1,000万円×55%×20%=110万円の節税しか期待できません。

 もともと結婚資金や出産育児資金は、必要となる都度子や孫に贈与する場合には、贈与税がかかりません。以上のことを考えると、「事前に一括して早く贈与したい」という強い希望があればともかく、相続税対策としては、この制度を利用するメリットはあまりないようです。

2015年2月26日 (担当:後 宏治)

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