2014年5月30日

組織再編税制における租税回避否認リスクの判断ポイント

 ヤフー株式会社が「合併によって引き継いだ被合併会社の繰越欠損金」を損金算入したことが、課税庁に租税回避行為と認定され課税が行われた事件について、東京地方裁判所は、先日、国を勝たせる判決を下しました(平成26年3月18日・東京地裁判決)。

 この判決は、組織再編成税制の中の包括的な租税回避防止規定である「法人税法132条の2(組織再編成に係る行為または計算の否認)」の適用の可否に関して、わが国で初めてなされた司法判断であり、既存の組織再編成の実務を根本から揺るがす画期的なものです。

 今までの実務では、132条の2の租税回避の判断基準は、この規定が創設される前からある「法人税法132条(同族会社の行為または計算の否認)」の判断基準と同じと解して、「事業目的があれば租税回避には該当しない」とされていました。

 その理由は、組織再編の132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」という要件が、古くからある132条でも同じ文言で要求されており、132条の通説的解釈ではその文言は「私的経済取引として異常または変則的で、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合」とされ、そのときに限り租税回避に該当するとして否認されてきたからです。

 つまり、「租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在するか」という基準が唯一の判断基準だったのです。このため、事業目的等がありさえすれば、あとは組織再編の個別規定の各要件を形式的に満たすことで否認リスクはなくなると考えられていました。

 ところが、東京地裁は、事業目的が存在しても、個別規定を形式的に適用したときにもたらされる税負担減少効果が、組織再編成全体としてみた場合に組織再編税制の趣旨・目的に明らかに反し、または個々の行為を規律する個別規定の趣旨・目的に明らかに反するときは、132条の2の否認対象になる、ということを明らかにしました。

 この判決から、否認されない判断ポイントとして、次の2つのテストを順番に検討し、どちらも満たす必要があることが読み取れます。

①事業目的テスト
   組織再編行為全体に事業目的や正当理由があること

②趣旨目的テスト
   全体および個別規定の趣旨・目的に反した税負担減少効果がないこと

 つまり、いままでは、①だけで十分とされていたのが、今後は、②について判定することが大切になってくるのです。

 ここで問題となるのが、②の判断を具体的にどのようにするか、ということです。趣旨・目的については、「改正税法のすべて」や「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」などの立法資料を手掛かりに確認することになりますが、ある組織再編の行為や計算がその趣旨や目的に反していないことをどのように判断すればよいのでしょうか?

 実は、この点はあまり明確ではありません。1つの有力な見解として当時の立法担当者によるものがあり、これによると、132条2の否認規定を「組織再編税制の濫用により税負担を減少させるものが出てくることを防ぐ(制度の濫用防止)規定」ととらえ、各規定に関係する個々の行為や計算について、それらが不自然ではないか、不合理ではないか、というような「濫用」の観点から判断することになります。

 個別規定の創設趣旨や目的を踏まえ、どのようなものが「通常」で、「自然」、「合理的」ということになるのか、他方、どのようなものが「異常」、「不自然」、「不合理」ということになるのかを区分するのです。この区分は、税務に携わる人の常識により「節税を意識していない人が普通はそうするかしないか」により行われると考えられます。そして、「常識的に普通はしない」という行為・計算が、「異常」、「不自然」、「不合理」と評価されることになるのです。

 なお、ヤフー側は東京高裁に控訴しています。高裁で地裁の判断が覆される可能性もありますが、今後の組織再編成の実務では、事業目的テストだけでなく、趣旨目的テストを合わせて行わないと否認リスクは防ぎきれない、と認識しておくことが安全のため大切です。

2014年5月30日 (担当:後 宏治)

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