2013年5月28日

海外移住した子供の住所は親の住所と同じか?

 名古屋高裁で海外に移住していた子供の住所についての注目すべき判決が先日出されました。

 事案の概要は、非上場会社の創業者である祖父は、かねてから自分の相続対策に関心があり、海外生命保険を利用した節税等を検討していたところ、専門家からの助言を得て、平成16年8月、解約変更不可能型の永久信託を米国にて設定し、その信託において長男を被保険者とする生命保険を購入し、米国籍のみを有する米国居住の生まれたばかりの孫(0歳)を当初の受益者とする信託の設定を実行したというものです。

 相続税法によると、信託受益権を取得した時に孫が日本に「住所」を有している者と認められれば、この信託受益権の全部について、孫に贈与税が課されることになります。

 名古屋高裁で争われたのはこの「住所」についてです。

 受贈者の住所が争われた武富士事件においては、住所とは、反対の解釈をすべき特段の事由がない以上、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解され、受贈者である武富士の後継者の海外滞在日数が出国期間中の約3分の2(国内での滞在日数の約2.5倍)であることを重視して、「住所」は日本ではないと判断しました(最高裁平成23年2月18日判決・武富士事件・参照2011年6月3日UAPレポート)。

 名古屋事件の孫は、日本国籍の両親の子であるものの、米国において生まれたため、米国籍のみを有しており、信託受益権を取得したときには生後8ヶ月の乳児でした。孫は、この8ヶ月間のうち、米国に183日滞在していたのに対し、日本には72日しか滞在していませんでした。

 日本の滞在日数を重視した先の武富士事件の最高裁判決にならえば、孫の住所は米国になりそうですが、名古屋高裁は、孫の住所は日本であると判断しました。

 なぜ、そのような判断になったのか、それは、孫の住所を両親の住所で判断したからです。すなわち、名古屋高裁は、"孫は生後約8か月の乳児であって、両親に養育されていたのであるから、孫の住所を判断するに当たっては、その両親の生活の本拠が異ならない限り、その生活の本拠がどこにあるかを考慮して総合的に判断すべきである"との判断基準を示し、両親の生活の本拠を日本と認定し、孫の住所を日本であると結論づけたのです。

 名古屋高裁が示した判断は、子供は親に監護養育されているのだから、子供の住所は親の住所と同じであるということです。つまり、子供の住所は親権者の住所で判断することになるのです。

 この判断にはいくつかの疑問点があります。

(1)親権者の住所で判断するのはいつまでか、乳児の間だけなのか、未成年であればずっとそうなのか。

(2)留学中の学生は扶養をしている者の住所地で判断している現行取扱い(相基通1の3・1の4共-6)と矛盾しないのか。必ずしも「親=扶養している者」とはならないのではないか。

(3)留学中や短期海外勤務であっても、長期間の国外在住が予定されているなど明らかに国外に生活の本拠があると認められる場合は、国外に住所があると判断することとなっている(相基通1の3・1の4共-6本文かっこ書き)が、この場合でも親の住所で判断するのか。

 これらの疑問点にどう答えるのか、最高裁判決がでるまでは不明ですが、税務リスクを避けるため、子の住所が国外であると判断されるには、扶養者である両親の住所も国外であることが必要だと考えておくべきでしょう。

2013年5月28日 (担当:後 宏治)

ページトップへ