翌課税期間に土地を譲渡する場合は、一括比例配分方式の選択はより慎重に
平成24年4月1日以後に開始する課税期間から、その課税期間の課税売上高が5億円をこえる場合には、課税売上割合が95%以上であったとしても課税仕入にかかる消費税額の全額を控除することはできません。そのため、個別対応方式または一括比例配分方式のいずれか有利な方を選択することになります。ちなみに、①課税対応仕入×(1-課税売上割合)と②非課税対応仕入×課税売上割合を比較して①の方が大きい場合には個別対応方式の方が有利に、②の方が大きい場合には一括比例配分方式の方が有利になります(下記【具体例1】参照)。
ただし、【具体例1】のように一括比例配分方式の方が有利になった場合であっても、一括比例配分方式を選択すると課税期間が1年の事業者は、2年間個別対応方式に変更することができないため、翌課税期間も一括比例配分方式の方が有利かどうかを含めて判断しなければなりません。
特に注意が必要なのは、翌課税期間に土地の譲渡が予定されている場合です。非課税売上である土地の譲渡にかかる譲渡対価は、課税売上割合(=課税売上÷(課税売上+非課税売上))の計算上分母の金額に加算されるため、土地が譲渡された場合には課税売上割合は大きく減少します。そのため、一括比例配分方式は不利になる可能性があります(下記【具体例2】参照)。
さらに、偶発的な土地の譲渡にともなって課税売上割合が減少すると、個別対応方式を選択した場合であっても、例年に比べ消費税額の納税額が増加する可能性があります。例えば、【具体例1】のように、土地の譲渡がなかった場合には個別対応方式の共通対応仕入にかかる控除税額は5,760,000円(=6,000,000円×96%)であるのに対し、【具体例2】のように、土地の譲渡があった場合は個別対応方式の共通対応仕入にかかる控除税額は2,400,000円(=6,000,000円×40%)となります。つまり、課税売上割合の減少にともなって土地の譲渡に直接関係していない共通対応仕入にかかる控除税額が減少し、これにより例年に比べ消費税額の納税額が増加します。これでは、事業の実態を適切に反映した消費税額の計算とはいえません。
そのため、個別対応方式で計算する場合で、この土地の譲渡が単発、かつ、土地の譲渡がなかったとしたときには、事業の実態に変動がないと認められる場合※1に限り、土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合または土地の譲渡があった課税期間の前課税期間の課税売上割合のいずれか低い割合で控除税額を計算することが認められています※2(下記【具体例3】参照)。なお、この割合は、一括比例配分方式では適用できず、個別対応方式で計算する場合にのみその適用が認められています。したがって、土地を譲渡した課税期間はもちろんのこと、譲渡直前課税期間も一括比例配分方式の選択を避ける必要があります。
このように、土地の譲渡がある場合には個別対応方式の方が有利になることが多いです。個別対応方式か一括比例配分方式かを選択するにあたっては、土地を譲渡した課税期間に個別対応方式が選択できるかどうかを含め慎重に検討しましょう。
※1 事業者の営業実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内である場合が該当します。
※2 事業者が課税売上割合に準ずる割合の適用承認の申請を行い、税務署長から承認を受けた日の属する課税期間から適用されます。
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