繰戻し還付?繰越控除?欠損金利用時のポイント
青色申告書を提出している法人※1に欠損金が生じた場合には、その欠損金を前事業年度に繰り戻して既に納めた法人税の還付を受けるか、その欠損金を翌期以降に繰り越して翌期以降に生じた所得から控除するかを選択することができます。通常、繰戻し還付の方が欠損金を早期に利用でき、キャッシュも入ってきますので有利に見えますが実際はどうなのでしょうか。
視点1:税負担の軽減効果の検討
欠損金はできるだけ高い法人税率が適用される所得に充てた方が税負担の軽減効果が大きくなります。例として平成25年3月期に欠損金が生じた法人について次の2つのケースを考えます。
ケース① 平成24年3月期 課税所得 800万円
平成25年3月期 欠損金 ▲800万円
平成26年3月期 課税所得 1億円(予想)
ケース② 平成24年3月期 課税所得 1億円
平成25年3月期 欠損金 ▲800万円
平成26年3月期 課税所得 800万円(予想)
法人税の適用税率
平成24年3月期 | 平成25年3月期 | 平成26年3月期 | |
---|---|---|---|
所得金額800万円以下 | 18% | 欠損金 | 16.5%(復興特別法人税含む) |
所得金額800万円超 | 30% | 欠損金 | 28.05%(復興特別法人税含む) |
税負担の軽減効果
繰戻し還付 | 繰越控除 | 税額差 | |
---|---|---|---|
ケース① | 18% | 28.05% | 80.4万円 |
ケース② | 29.04% ※2 | 16.5% | 100.32万円 |
ケース①では繰越控除、ケース②では繰戻し還付を受けた方が欠損金を有効利用できることになります。税制改正に伴い欠損金を繰り越すことができる期間が9年間に延長され、欠損金を使い切れずに期限切れする懸念も従前と比べて薄くなりましたので、欠損金が生じた事業年度の前事業年度に課された法人税率が低い場合には、あえて繰戻し還付を適用しないことも選択肢の一つといえます。
視点2:税務調査の誘引
税務署は欠損金の繰戻し還付の請求があった場合には、"調査をし、調査に基づいて還付をする"と法人税法には規定されています。つまり、繰戻し還付請求を行うと何らかの"調査"が確実に行われます。調査には提出された申告書等を確認するという書面調査もありますので、ここで言う"調査"がいわゆる実地調査を意味する訳ではありませんが、赤字申告法人が多い昨今、繰戻し還付請求に対しては積極的に実地調査を行おうという姿勢を感じることもありますので、少しでも税務調査を呼び込む可能性を低くしたいということであれば、あえて繰戻し還付を行わないという考え方もできます。
視点3:修正申告、更正時のペナルティ
欠損金が生じた事業年度の確定申告に係る税務調査の結果、欠損金の額が当初申告分より減少した場合、減少した欠損金のうち繰戻し還付に充てた部分は過大な還付を受けたことになりますので、過大な還付額を返還する必要があります。この際、通常の修正申告に伴う納税を行う場合と同様に延滞税や過少申告加算税といったペナルティも課せられます。繰越控除の場合であっても、税務調査の結果追加納税が必要となったときの取り扱いは同様ですが、欠損金利用前に税務調査があれば欠損金を減額する処理のみで、延滞税や過少申告加算税といったペナルティを回避できるかもしれません。
以上のとおり、視点を変えると繰戻し還付ではなく、繰越控除を選択したいというケースもあるのではないでしょうか。

※1 普通法人のうち、資本金の額が1億円超のものや資本金5億円以上の大法人の100%子会社等は除きます。
※2 (800万円×18%+9,200万円×30%)/1億円=29.04%
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