金銭債権の一部貸倒れ(金銭債権の評価損)と貸倒引当金の廃止
現行の法人税法上、資産の評価損が計上できる場合は限定されており、会社更生法や民事再生法の更生計画または再生計画の認可決定時における評価替等のとき
評価損の計上につきこのように整理されたのは平成21年度の税制改正によります。同改正では、評価損の計上対象となる資産の範囲について、改正前の「預金、貯金、貸付金、売掛金その他の債権...を除く」という条文規定が削除されました。
ここで問題になるのが、従前は不可能であった金銭債権の評価損の計上が、会社更正法や民事再生法の計画認可決定時以外のときに可能になったのかということです。
この点を検討してみると、まず、①の物損等の事実が生じた場合の評価損の計上対象となる資産の範囲は、棚卸資産、有価証券、固定資産および繰延資産に限定されていることから、金銭債権は評価損計上の対象にはなりません。
次に、②の法的整理の事実が生じた場合(=具体的には、「民事再生法の規定による再生手続開始の決定があった場合」や「産業活力再生法の事業再構築計画等が認定された場合」で、民事再生法の再生計画認可決定よりもずっと早い段階)においては、評価損計上対象資産の限定が法令上ないことから、一見、金銭債権の評価損を計上することができるとも考えらます。
しかし、課税庁はこの場合でも、金銭債権については評価損の計上はできないとしています(法基通9-1-3の2)。その理由は、①物損等の事実や②法的整理の事実による評価損を計上するための経理要件として、損金経理が要求されていることです。企業会計上、金銭債権について回収不能見込額がある場合には、貸倒引当金により損失を計上することになっていることから、評価損としては損失計上できる場合はありません。そこで、法人税もこの会計処理を前提に、金銭債権は当然に評価損計上資産には含まれないとしています。
つまり、現行法人税法上、金銭債権の含み損については評価損として損金算入すること、すなわち、「金銭債権の一部貸倒れ」を認めることは会社更正法等による以外では不可能であるが、貸倒引当金により一定の限度額までは損金算入できるのだから実務上は特に問題ないだろうとされているのです。
ところが、平成23年度改正(経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律)により、平成24年4月1日以降、貸倒引当金が認められるのは、期末資本金の額が1億円以下である普通法人(資本金の額が5億円以上である法人等の100%子法人を除く)と銀行等の一定の法人だけになりました。したがって、資本金が1億円を超える法人では、昨年までは認められていた②法的整理の場合の貸倒引当金の計上が今後(経過措置があるものの)認められなくなります。
金銭債権の評価損を認めなくても貸倒引当金があるから問題がないとされていた現行規定は、大法人につき貸倒引当金が廃止された現在、制度相互間の整合性が崩れてしまっているため、見直すことが必要だと思われます。これを契機に金銭債権の一部貸倒れを認めるというのも法改正の方向として十分考えられます。
しかし、資本金1億円超の法人については、新法が整備されるまで、金銭債権の含み損に関して不利な取扱いが継続します。どうしても早期に損金に計上したい場合には、サービサーなどの他法人に債権譲渡をするか、法律的な債務免除を早期に行うかしか手はなさそうです。
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