100%子会社から親会社への寄附
100%の子会社が親会社に対して金銭を交付することがありますが、この金銭が「寄附」に当たるのか「配当」に当たるのか、実務上判断の困難な問題です。
寄附に該当すれば、寄附した子会社で全額損金不算入(法法37②)、もらった受贈益は親会社で益金不算入(法法25の2①)となり課税は生じませんが、特定同族会社である場合には留保金課税の対象となります。さらに、子会社株式の簿価について「寄附修正(法令9七、119の3⑥)」が適用されます。
配当に該当すれば、子会社では資本等取引に該当し損金にならず、親会社でも受取配当等の益金不算入制度(法法23①④⑤)で課税は生じませんが、寄附金の受贈益の場合と同様、特定同族会社であるときは留保金課税の対象となります。寄附と異なる点は、配当による簿価の修正はないこと、及び、子会社で20%の源泉徴収が必要(所法181)とされることです。
このような差異があるため、寄附という認識で実施した金銭の交付が配当だとされると想定外の課税が生ずることになります。
そこで重要なのが、「寄附」か「配当」の区別の基準です。
法人税の基本通達には「...利益又は剰余金の分配には、法人が剰余金又は利益の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、株主等に対しその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益を含む(法基通1-5-4)」との定めがあります。
また、UAPレポート『税法における「配当所得」の守備範囲には注意を)』でお伝えしたとおり、①法人が、②その利益から、③その株主等に対し、④株主等たる地位に基づいて供与した利益は、その名目にかかわらずこれを利益の配当たる配当所得に含まれる、とする判決(東京地裁平成23年5月31日判決)もあります。
これらから、実務では、子会社から親会社への寄附は「経済的利益」そのものの供与であり、すべて配当に当たるとする意見も有力です。
では、子会社から親会社への寄附は一切できないのか、というとそうでもないと考えられます。
そのポイントは、「②その利益から」行われるものかどうか、すなわち、寄附等の経済的利益が一応の損益計算に基づく利益から供与されたとみることができるか否かです。
まず、租税法でいう利益配当は、会社法が前提とする、取引社会における利益配当の観念(=損益計算上の利益を株主の出資に対して支払うこと)と同一の観念を採用しているものと解されています(前出・東京地裁判決)。
「損益計算上の利益を株主の出資に対して支払うこと」という要件は、最高裁昭和35年判決で示されたもので、その意味するところは、株金額を出資の元本とみて、この資本を基礎として行われる経済活動により資本の増殖が行われたかどうかという見地からなされる一応の損益計算に基づき資本の増殖すなわち利益があったものとして株主に支払われるものであれば足りるという趣旨だと説明されています(『最高裁判所判例解説(民事篇)昭和35年度』364頁)。
この趣旨に従い判断すると、配当といえるためには、その金額の決定につき、「一応の損益計算」があり、その結果、会社に積極財産が生じ、かつ、その積極財産を原資として利益供与された、といえることが必要だと考えられます(前出東京地裁判決でも同様のプロセスにより「②その利益から」の供与であると判断しています。)。
すなわち、子会社から親会社への寄附のすべてが配当とされるわけでなく、金額の決定に当たり「一応の損益計算」もないものは、配当だとはされないと解されます。
もちろん「一応の損益計算」の有無は事実認定により決まりますから、ケースバイケースですが、「一応の損益計算」がなく供与されること、すなわち、利益の有無にかかわらず供与されること、が社会通念上明らかなものであれば、税務上、これを配当とすることはないでしょう。
このような解釈は、所得税基本通達の「法人が株主等に対してその株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益であっても、法人の利益の有無にかかわらず供与することとしている」株主優待券などは、「法人が剰余金又は利益の処分として取り扱わない限り、配当等...には含まれない(所基通24-2)」という定めの存在と整合的です。
したがって、親会社が被災して子会社が支援のため寄附や債務免除を行うような場合には、その経済的利益の供与が配当とされることはなく、寄附金課税の有無を検討するだけで足りると考えます。このような場合でも、実務的には、寄附を行う理由とその金額の決定につき、「一応の損益計算」の結果行うものではないことを疎明する資料を作成することが必要でしょう。
それでも税務上のリスクが残る場合には...。源泉徴収が必要とされない国債等の適格現物分配を検討してみてはいかがでしょうか(UAPレポート「親会社への配当は交付財産次第で源泉徴収不要に」参照)。
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