税制改正により創設された適格現物分配の活用と注意点
平成22年度税制改正によるグループ法人税制の整備に関連して、組織再編税制の一環として適格現物分配の規定が創設されました。
この規定は、平成22年10月1日以降の現物分配(※1)のうち、100%支配関係のある内国法人間で行われる現物分配を、適格現物分配(※2) として取扱い、他の適格組織再編と同じように、譲渡損益の繰延べにより、税負担を生じさせずに資産の移転ができるようにしたものです。この規定の創設により、今後、グループ内孫会社を子会社化する組織再編が増加するものと思われます。
この規定の創設の趣旨は、主として、税コストをかけずに、グループ内孫会社を子会社化して、企業グループ経営の強化や意思決定のスピード向上・管理体制の強化・資源配分の適正化等を行ないたいという企業側からのニーズに応えたものです。
改正以前にも、グループ内孫会社の子会社化の手法はいくつかありましたが、いずれにもデメリットがあり、実務上、その実行は困難でした。すなわち、株式譲渡や現物配当による手法は時価譲渡となり含み益に課税がされてしまい、また、分割型分割による手法については、会社法に抵触する可能性が指摘され、弁護士の見解も分かれるなか、リーガルオピニオンの入手が簡単ではないといった、コンプライアンス上の問題がありました。
このように、従来は、孫会社を子会社にすることには強いニーズがありながらもその実行が困難だとされていましたが、今回の税制改正により、スムーズな再編が可能になっています。
具体的には、100%の子会社であるB社が現物のC社株式を、剰余金を原資とする配当として親会社A社に交付することによって、非課税で孫会社C社をA社の子会社にできます。
この場合の課税関係は、適格現物分配を行なった子会社Bでは、その移転する資産を帳簿価額により譲渡したものとし(法法62の5③)、譲渡損益を計上せず、源泉徴収も行わない(所法24①)ことになり、資産の移転を受けた親会社Aでは、C社株式を移転直前の帳簿価額相当額により取得したものとし(法令123の6①)、その受けたことにより生ずる収益について益金不算入とする(法法62の5④)ことになります。
ところで、このように便利な適格現物分配の規定ですが、その活用方法のひとつとして、中小法人の優遇税制不適用の回避を目的とする子会社化への適用を考えることがあるかもしれません。
なぜこの手法の適用を検討するのか、それは、もしも、上の事例でA社が中小法人でB社が資本金5億円以上の大法人であるとすると、再編前の孫会社C社は、B社との完全支配関係があることから、資本金が1円でも大法人として扱われ、軽減税率の不適用や交際費課税の損金算入枠の消滅など、不利な取扱いを受けることになってしまいますが、この状況で孫会社C社をA社の子会社にすると、中小法人の優遇税制の適用を引き続き受けることができるからです。
しかし、この規定が創設された趣旨は、上述のように企業グループ経営の強化等であるため、子会社化の目的が節税のためだけであるなど、制度趣旨から外れた経済的合理性のないものである場合には、法人税を不当に減少させる行為であると税務署長に認定されて、包括的租税回避防止規定(法法132、132の2)が適用される可能性が高いと思われますので注意が必要です。
さらに、適格現物分配は、一定の欠損金額の繰越控除の制限規定 (法法57④)、特定株主等によって支配された欠損法人の資産の譲渡等損失額の損金不算入規定(法法60の3①、法令118の3①)および特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入規定(法法62の7)の対象に追加されていますので、事前の慎重な検討が必須だと思われます。
※1 現物分配とは、剰余金の配当等またはみなし配当により株主等に金銭以外の資産を交付することをいいます。(法法2十二の六、十二の六の二)
※2 適格現物分配とは、下記の要件をすべて満たす現物分配のことをいいます。(法法2十二の十五)。 ①現物分配をする法人は、内国法人であること。 ②現物分配を受ける法人のすべてが、内国法人であること。 ③現物分配を受ける法人のすべてが、普通法人又は協同組合等であること。 ④現物分配の直前において、現物分配をする法人は、現物分配を受けるすべての法人と100%完全支配関係にあること。
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