平成22年10月1日以降に同一の一般社団法人によって倒産隔離されたSPC間で資産譲渡を行った場合はどうなる?
平成22年度税制改正で創設されたグループ法人税制においては、平成22年10月1日以降に、完全支配関係(※1)にある内国法人間で譲渡損益調整資産(※2)を譲渡(以下「100%グループ内譲渡」といいます。)した場合には、譲渡損益を一定の時点まで繰り延べることとされました(法法61の13①)。同一の一般社団法人により倒産隔離のためその出資持分のすべてを所有されるSPC間で譲渡損益調整資産の譲渡を行った場合には、同改正の適用を受ける事になりますが、その際には譲渡損益を認識するタイミングについて注意が必要です。
証券化スキームとして一般的なGK-TKスキームの場合、営業者たる合同会社に生じた匿名組合事業に係る損益はパススルーで匿名組合出資者に分配されます。その際、分配対象となる損益の計算は匿名組合契約において一般的に公正妥当と認められる会計の基準に従って行うことを原則としつつ、税法にこれと異なる規定がある場合には、税法の規定に従って行うとすることが一般的です。したがって営業者が100%グループ内譲渡を行った場合には、匿名組合出資者への分配損益の計算上も法人税法の規定に従って当該譲渡損益を繰り延べて計算する(※3)こととなり、結果として会計と税務の損益計算は一致し、100%グループ内譲渡により営業者に税務上の課税所得、欠損金額は生じません(※4)。ただし、会計監査人の指導等により匿名組合事業に係る損益の計算上、譲渡損益を繰り延べる会計処理を行えない事情がある場合には、会計と税務における損益計算が一致せず、結果として営業者に課税される可能性もあり注意が必要です(※5)。
また、繰り延べられた譲渡損益がいつ実現するかについても気になるところです。これについては、譲渡損益調整資産に係る譲渡損益は譲渡を受けた法人において再譲渡、償却、除却等が行われた場合(法法61の13②)、または譲渡した法人が譲り受け法人との間に完全支配関係を有しなくなった場合(法法61の13③)に実現するとされています。通常、譲渡損益調整資産の譲渡を受けた法人においてすぐに再譲渡、償却、除却等が行われて税務上繰り延べられた譲渡損益がすべて実現することは考えにくいため、当該損益を早期に実現したい場合には、譲渡法人と譲受法人との間に完全支配関係を有しなくするために一般社団法人の保有するSPCへの出資持分を他に譲渡することやSPCの清算結了といった手当てが必要になります(※6)。逆にやむをえず譲渡損益調整資産の譲渡をしたものの譲渡損益の実現は繰り延べたいといった場合には、あえて100%グループ内譲渡にするといったことも考えられるかもしれません。
※1 一の者が法人の発行済株式等の全部を直接もしくは間接に保有する関係として一定のもの(例えば親子会社)または一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係(例えば兄弟会社)をいいます(法法2十二の七の六)。
※2 固定資産、土地(土地に関する権利を含み固定資産に該当するものを除きます)、有価証券、金銭債権および繰延資産で譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のもの等をいいます。
※3 法人税法では、 譲渡利益額または譲渡損失額に相当する金額を、それぞれ損金算入または益金算入することにより譲渡損益を繰り延べます。
※4 営業者報酬等、営業者に固有の損益がある場合には、その分の課税所得、欠損金額等は別途発生します。
※5 例えば、営業者に譲渡損益調整資産の譲渡損が生じた場合には、営業者に発生した譲渡損が税務上繰り延べられる一方で、当該譲渡損を匿名組合出資者に損失分配することにより営業者が匿名組合損失分配益を計上し、結果として当該分配益に対して課税されることになります。
※6 ※5のケースで考えますと、譲渡損が発生した事業年度中にSPCへの出資持分を他に譲渡すれば譲渡損の繰延べが行われないため営業者においては課税されず、譲渡損が発生した事業年度にSPCを解散し、1年以内に清算結了すれば、繰り延べられた譲渡損の実現に伴い生じた欠損金の繰戻しによる還付請求により、法人税については還付を受けることができます。
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