2010年5月26日

100%グループ内における適格分割と譲渡損益の繰延の有利判定

 2009年3月4日付UAPレポート「グループ法人課税制度と相続税株式評価」の通り、平成22年度税制改正により、100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等の譲渡損益の繰延の規定(法法61の13)が設けられました。

 この規定により、100%グループ内の法人間で譲渡損益調整資産(簿価1,000万円以上の固定資産等)を単に譲渡する場合も、適格分割により資産を移転する場合と同様に、譲渡損益が実現しないこととなりました。

 とすると、100%グループ内の場合、適格分割と譲渡損益調整資産の譲渡との間に有利不利はないのでしょうか?実は、下記の通り、譲渡損益が実現しない点は同じでも、基本的な考え方の違いに由来して、繰延べられた譲渡損益が実現する場所が異なってきます。

  適格分割 譲渡損益調整資産の譲渡
基本的な考え方 簿価引継ぎ 時価譲渡+譲渡損益の繰延べ
繰延べられた譲渡損益が実現する場所 資産の移転の法人 資産の移転の法人

 従って、将来的に譲渡損益が資産の移転の法人で実現することが望ましい場合には適格分割を、移転元の法人で実現することが望ましい場合には単なる譲渡 ※1を選択する、といった対応が考えられます。

 なお、繰延べられた譲渡損益が実現するタイミングは、いずれも資産の移転での譲渡等の時です。その際の譲渡先に制限はない※2 ため、100%グループ内の企業への譲渡であっても、当初繰延べられた譲渡損益が実現することとなります(法法61の13②)。

 企業グループ内で経営資源の最適化を図るために資産を移転する際には、繰延べられた譲渡損益が実現する場所、タイミングを十分に考慮しておくことが重要だと思われます※3

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※1 譲渡の場合、譲渡対価の支払および消費税の課税が発生します。なお、譲渡ではなく、非適格分割であれば、いずれも発生しません。

※2 グループ法人税制創設の趣旨を鑑みると、譲渡損益調整資産の譲渡により繰延べられた損益ついては、100%グループ外に譲渡された時に実現すべきではないかとも考えられますが、実務面を考慮し、このような規定となっているようです。

※3 含み損資産の譲渡損を実現させるためだけに、100%グループ内で複数回の譲渡を行った場合には、行為計算として否認される可能性があることには注意が必要です。  

2010年5月26日 (担当:吉岡純男)

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