2010年4月28日

小規模宅地等の特例の改正により相続税対策は大幅な見直しが必要

 平成22年度税制改正で小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「小規模宅地等の特例」といいます)が大きく変更されました。小規模宅地等の特例については、これまで課税された申告書の被相続人のうちこの特例を適用している申告書の被相続人の割合が90%を超え(※1)、また、相続税対策としても活用されてきましたが、改正により適用要件が厳格化され、これまでのような節税効果が期待できなくなりました。そのため、改正前の小規模宅地等の特例の適用を前提とした相続税対策を行っていた場合には、大幅な見直しが必要となります。以下主な改正内容と今回の改正により適用されなくなるケースについてまとめてみます。

 (1)主な改正内容
 改正前は、相続開始直前の状況により適用要件の判定をし、相続税の申告期限までの継続要件を満たせば80%減額、満たさなければ50%減額とされていました(図参照)。これが改正後は、相続開始の直前と申告期限の2つの時点の状況により適用要件の判定をし、相続税の申告期限(相続開始後10 ヶ月)まで事業または居住を継続するという継続要件を満たさない場合(図表の非継続の場合)は減額の対象とならず、継続している場合にのみ80%減額・50%減額とされます。特に、50%減額については、対象となる宅地等の範囲が大幅に狭まり、「被相続人または同一生計親族の不動産貸付業等の事業の用の供されている」ものだけが残されていることに要注意です。

 このほか、共同相続の場合の適用要件の判定は取得者ごとに行うこと、1棟の建物の敷地の一部が特定居住用宅地等に該当する場合の貸付用部分の宅地等の80%減額の適用の廃止、などの改正点があります。

 その結果、改正前では50%減額または80%減額の適用が可能であった宅地等が改正後では適用そのものを受けられないということが生じます。

 (2)今回の改正により適用されなくなるケース
 ①共同相続の場合は、取得者ごとに適用要件の判定が行われます。たとえば、別生計親族で非同居の長男が被相続人の居住の用に供されていた宅地等を被相続人の配偶者と共同相続した場合、改正前はその配偶者とともに長男も80%減額が可能でしたが、改正後は、配偶者のみ80%減額で長男には適用されません。

 ②居住用の部分と貸付用の部分があるマンションの敷地等については、改正前は、1棟の建物の敷地の一部が特定居住用宅地等に該当すれば貸付用の部分の宅地等についても特定居住用宅地等として限度面積まで全て80%減額が適用されていましたが、改正後は、それぞれの部分ごとに按分して軽減割合を計算することになるため、貸付部分について80%減額は適用されません。たとえば、3階建ての1棟の建物のうち3階部分が被相続人の居住の用に供されており、1、2階部分を第三者に賃貸していた場合でその3階部分を特定居住用宅地等の要件を満たす相続人が取得したときは、改正前は3階部分だけでなく、1、2階部分も80%減額が可能でしたが、改正後は、3階部分だけが80%減額で、1、2階部分は継続要件を満たせば50%減額、満たさなければ減額はありません。

 (3)今後の相続税対策
 (2)のようなケースにおいて対策を立てるとすれば、①の共同相続の場合は、相続開始前に長男が被相続人と同居して同一生計親族となることで特定居住用宅地等の要件を満たすこと、また、②の居住用の部分と貸付用の部分があるマンションの敷地等の場合は、3階部分は第三者に賃貸し50%減額の適用を受けるとともに、別途単価の高い宅地を取得してこれを居住の用に供し特定居住用宅地等の適用による減額金額を大きくすること、などが考えられます。

 このように今回の改正は大きな影響を及ぼしますので、その他の改正内容も踏まえたうえで再度ゼロベースから計画し直す必要があるようです。

1
(※1) 会計検査院 平成17年度決算検査報告 より

2010年4月28日 (担当:栗田 倫也)


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