グループ法人税制の適用と従業員持株会
平成22年度改正により、平成22年10月1日以後の取引について、100%グループ内の法人間の取引等に係る規制(以下「グループ法人税制」という。)が適用されることになります。これにより、100%グループ内の法人間の資産の譲渡に係る譲渡損益が繰り延べられることになり、いわゆる「損出し」「益出し」ができなくなります。
グループ法人税制によって有利になるか不利になるかは一概には言えませんが、個人が支配する企業グループの多くの場合、譲渡益課税なく資産を移転できるメリット(これは既存の適格組織再編により比較的簡単に実現できます。)よりも他のグループ会社を利用した「損出し」ができなくなることのデメリットが大きいため、グループ法人税制を適用したくないという考えが有力になると思われます。
この税制が適用されるかどうかはグループ会社株式の保有関係によって判断されます。すなわち、100%資本関係がある法人を1つのグループととらえるため、同族関係者で直接間接に株式を100%保有する場合は強制的に適用され、100%未満であれば適用されません。したがって、適用しないようにするには、保有関係を見直し株式の分散を検討します。
ただ、第三者に株式を分散させると会社情報を開示しなければならずまた経営に口出しされるなどのおそれもあり、会社支配の観点から得策ではありません。
そこで注目されるのが従業員持株会です。
民法組合である従業員持株会の株式数が5%未満であれば、その株式数を除いて100%か否かを判断することになっている(法令4の2②)ことから、5%以上の株式を従業員持株会に持たせれば、グループ法人税制の適用を受けないことが可能になります。
相続税の節税対策で利用されることが多い従業員持株会ですが、法人税課税の観点からの利用も要検討です。
ところで、上記改正により、規制対象となる取引の有無にかかわらず、全ての法人は、確定申告書に法人事業概況書とともに「完全支配関係がある法人との関係を系統的に示した図」を添付することになりました(法規35①四)。具体的には、いわゆる「グループ関係図」を遅かれ早かれ作成し提出することになります。
この作成には、親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)が有する全ての株式を調査するなどにより現状を把握し、自社グループの含み損益資産の所在を確認して有利な課税を受けるべくあるべきグループ会社株式の保有関係を見直すなど、場合によっては非常に時間がかかることが予想されます。
保有関係を見直す場合には従業員持株会の利用が有力な対策の一つとして検討することになります。これらの検討と実行には時間がかかるため、早めの着手が必要です。
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