2010年3月 4日

当初出資金額よりも廉価で匿名組合出資を譲受けた法人が匿名組合分配損
失を受けた場合の取扱い

昨今の不動産市況の急速な悪化に伴い、SPC(営業者)への一般的な匿名組合出資※1を通じて保有している物件の価値が大幅に下落しています。また、借入返済期限までに物件を売却できず、リファイナンスを余儀なくされ、SPC(営業者)の借入金の金利負担も増大しています。これらのことから、上場会社等は、引き続き物件を保有する場合の連結上の減損損失発生や金利負担増を防ぐため、匿名組合出資を当初出資額よりも廉価で連結子会社以外の会社に譲渡し、SPC(営業者)を連結対象外とする場合があります。

 上記の場合に、一方の匿名組合出資の譲受会社側の課税関係はどのようになるのでしょうか。不動産市況の悪化のもとでの譲受なので、譲受後に損失が分配されることが想定されますが、譲受会社が当初出資金額よりも廉価で匿名組合出資を譲受け、その後にSPC(営業者)から損失の分配があった場合に、いくらまで損失をその事業年度の損金に取り込めるかが税務上の問題となります。

 匿名組合事業に係る損失分配について、分配損失額が調整出資金額を超える場合には、超過額は匿名組合出資者のその事業年度の損金の額に算入しないという規定(措法67の12)があります。そのため調整出資金額がいくらであるかによって損金算入額が決まります。

 調整出資金額は、出資者の出資金額を基礎として計算されることになっていますが、この規定の趣旨は、実際に支払った出資額が、出資者の実質的に債務を弁済する責任範囲であるため、出資額までの範囲内においてのみ損失をその事業年度の損金に取り込んでよいというものです。この趣旨からすると匿名組合出資を譲受けた場合には、譲受時に実際に支払った対価が調整出資金額になるとも考えられます。

 この点、譲受けにより匿名組合員の地位の承継を受けた場合の調整出資金額はその計算方法が法令で定められており、譲受直前の匿名組合計算期間終了時の純資産簿価に従前の匿名組合員の出資割合を乗じた金額とされています(措令39の31⑥)。この調整出資金額は譲受時に支払った対価の額に一致するわけでもなく、また、譲渡人である従前の匿名組合員の調整出資金額を引き継ぐわけでもないことに注意が必要です。

 当初出資金額を超えて損失が分配されない一般的な匿名組合契約を前提として、具体例を使って見ていきます。

 例えば、利益の出ている非上場会社が当初出資金額1億円の匿名組合出資を1円で譲受け、譲受後にSPC(営業者)から匿名組合事業に係る損失の分配を受けたとします。この場合に、いくらまで損失をその事業年度の損金に取り込めるでしょうか。

譲受直前の匿名組合計算期間終了時の匿名組合貸借対照表

(資産)              (負債)
 建物土地簿価 5.2億        借入   5億
                  (TK出資)
                  TK出資金 1億
                  累計損失 ▲0.8億

 上記の匿名組合貸借対照表の純資産簿価は0.2億円です。匿名組合出資者が1社のみであるとすると出資割合は100%です。したがって調整出資金額は0.2億円×100%となり、譲受後に損失が分配された場合には、1円で譲受けたにも関わらず、あと0.2億円まで損失をその事業年度の損金に取り込むことができます。

 このように、損失をその事業年度の損金に算入できるかどうかは、譲受時に支払った対価とは無関係に、譲受直前の匿名組合計算期間終了時の純資産簿価により決まります。

 したがって匿名組合出資の譲受会社は譲受後にいくらの損失をその事業年度以降の損金に算入できるかを把握するために純資産簿価を事前に確認すべきです。

 利益が出ている会社ならば廉価で、今後損失分配が予想される匿名組合出資を譲受け、分配損失をその事業年度以降の損金に取り込むことによって税務メリットを享受でき、そのことによって実際の投資利回りが上昇するといえます。逆に、純資産簿価を事前に確認しないまま、それ以上の対価で譲受け、その対価までの損失を損金に算入できると期待していると、その後実際に損失が分配されたときに損金算入ができない部分が生じてしまうという思わぬデメリットを受け、投資利回りが減少することも考えられますので注意が必要です。

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※1 一般的な匿名組合出資とは匿名組合出資金額を越える損失が出た場合にはその超える部分の損失は営業者負担とすることが匿名組合契約に定めてある匿名組合出資を意味します。

2010年3月4日 (担当 矢萩 貴之)

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