グループ法人課税制度と相続税株式評価
平成22年度税制改正により、完全支配関係がある法人の間の取引に係る税制が整備され、いわゆる「グループ法人課税制度」が導入されることになりました。
この新制度の各種規制のうち、多くの法人に大きな影響を及ぼす規制は次の二つです。
① 100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等の譲渡損益の繰延
② 100%グループ内の法人間の寄附金の損金不算入
①の規制は、100%グループ内の内国法人間で一定の資産の移転を行ったことにより生ずる譲渡損益を、その資産のそのグループ外への移転等の時に、その移転を行った各法人において計上する規制(法法61の13)であり、譲渡した法人においては、譲渡損益がグループ外に移転するまで未実現損益として繰り延べられることになります。
また、②の規制は、100%グループ内の法人間の寄附金について、寄附金を支出した法人において全額損金不算入(法法37②、法法81の6②)とし、これを受領した法人において全額益金不算入(法法25の2)とするものです。
ところで、この新制度により、相続税の株式評価はどのような影響を受けるのでしょうか?。
実務家は当初、これらの新規制により、含み益のある資産をグループ内の別法人に課税を受けることなく無償で移転することができ、みなし贈与の問題はのこるものの株式評価対策を以前より大胆に行うことが可能になると期待していました。
しかし、新制度の概要が明らかにされると、この期待は一挙に失われました。
というのも、100%グループ内の法人とは、完全支配関係がある法人をいいますが、①の譲渡損益繰延制度の完全支配関係には特に限定が付されていないため、個人※1を頂点とするグループ(=個人株主の支配する100%子会社)にも法人を頂点とするグループ(法人の100%子会社)同様適用されることは当初から明らかだったのですが、②の寄附金の損金不算入制度の完全支配関係には、「法人による完全支配関係に限る」との限定が付されていることが判明したからです。
したがって、個人を頂点とする100%グループには②の寄附金の損金不算入制度の適用はありません。これにより、例えば、個人100%グループ内の会社が無償で資産をグループ内の他の会社に移転させた場合、譲渡損益課税は生じないものの、寄附金課税および受贈益課税が生じます。この結果、高額な税負担が発生し、無償による資産の自由な組み替えは、事実上、従前どおり実行不可能になったままです。
結局、個人を頂点とする100%グループには、①の譲渡損益繰延規制だけが適用されることになりますが、この規制には、適正な対価で売買を行うことにより課税なく資産の付け替えができるというメリットと、グループ間の損出しや益出しができなくなるというデメリットがあります。
メリットを生かすためには、将来値上がりしそうな資産や収益力のある物件を、グループ内の業績不振の赤字会社に時価で移転することが有利です。法人税等の節税にもなりますし、将来の利益積立金の移転により移転元会社の株価の上昇を抑制することにもなります。長期的対策となりますが、グループ全体では株価を平準化することが可能になり、有利な相続対策となるでしょう。
もちろん損出しができなくなるというデメリットもあるため、グループの実情に合った活用が必要となります。慎重なタックスプランニングが今後大切になるので留意が必要です。
※1 頂点になる個人の範囲は、同族関係者の範囲( 法令4 )と同様で、株主等の親族(六親等内の血族、三親等内の姻族および配偶者)など、非常に広い範囲で同族関係者をとらえるもので、多くの会社が100%グループ内の会社とされることになります。
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