非上場株式等についての相続税の納税猶予を受けるための担保
非上場株式を相続しまたは贈与を受けた場合に、その株式等に係る課税価格の80%または全部に対応する相続税または贈与税の納税が猶予されるという、新しい事業承継税制が始まっており、後継者への有利な事業の承継が可能になっています。
この場合、猶予される税額に見合う担保を税務署に提供しなければなりませんが、その額は、猶予された税額だけでなく、申告書の提出期限における後継者の平均余命年数を納税猶予期間として計算した利子税を合計した額(措通70の7-8、70の7の2-11)とされ、非常に高額になっており、金銭等による担保は現実的には困難な場合が多くなることが予想されます。
この点については、担保として資金等が寝てしまうと、後継者が納税資金で困らないようにするための本猶予制度が無意味になってしまうため、特例の適用を受ける非上場株式等のすべてを担保として提供した場合には、猶予税額等の額に見合う担保の提供があったものとみなされる取扱いが定められています(措法70の7⑦、70の7の2⑥)。
ただ、気になるのは、税務署長が担保権者となることの不利益です。 まず、株式の譲渡制限についてみてみると、今までは、税務署が非上場株式を担保に取る場合には、譲渡制限をはずすことを要求していました。 しかし、先日公表された租税特別措置法通達では、特例非上場株式等のすべてが担保として提供される場合には、その株式の譲渡に制限が付されているものであっても、納税猶予分の相続税額に相当する担保が提供されたものとみなす(措通70の7-32 、70の7の2-33)ことが明らかにされており、譲渡制限をはずす必要はありません。
次に、納税猶予期間中の配当については、税務署長への担保が株主名簿に記載・記録しない略式質である※1ことに注目する必要があります。略式質であっても、利益配当請求権には質権の効力は及びます(会社法151八)が、略式質権者である税務署長は、直接剰余金の配当を請求することはできず、被担保債権の弁済期が到来している場合に剰余金の配当請求権を差し押さえることが可能とされているだけです。したがって、株主である後継者に配当金を支払うことで足り、税務署長へ支払う必要はありません。 さらに、税務署長が議決権を行使するのではないかという点については、質権者である税務署長は株主でないため議決権の行使はできません。質権は担保対象物の交換価値を把握するにとどまるため、質権の設定によっても議決権は影響を受けないと解されている(通説)からです。
以上のように、税務署長が非上場株式を担保に取ることについて、実務的な問題点は特にありません。納税猶予制度は、担保に関しても非常に使いやすい制度になっているので、今後の活用が見込まれます。
※1 質権の株主名簿への登録を要求しない代わりに、非上場株式(株券)を法務局に供託し、供託書の正本を税務署長に提出することを求めています(通令16①)。
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