特定の非居住者等組合員の課税の方法に関する特例の創設
~平成21年度税制改正より~
平成21年1月23日に平成21年度税制改正の要綱が閣議決定されました。
国際課税関係では、外国子会社配当益金不算入制度の導入などとともに「投資事業有限責任組合等に出資する非居住者等への措置」が盛り込まれています。
これは投資事業有限責任組合(以下、「投資組合」といいます。)の組合員である非居住者または外国法人(以下、「外国組合員」といいます。)について次の2つの措置を講ずるものですが、いずれもベンチャーや再生企業等にファンドを通じた海外資金を呼び込む※1ことを目的としています。
① 投資組合の有限責任組合員であること、投資組合の組合財産の持分割合が25%未満であること等、一定の要件を満たす外国組合員は、国内に恒久的施設を有しない非居住者又は外国法人に該当する者とみなす。
② 外国組合員等が投資組合を通じて行なう株式等の譲渡(保有期間が1年未満である株式等の譲渡および一定の破綻金融機関株式の譲渡を除く。)が行われた場合の事業譲渡類似課税の判定は、組合員ごとのその株式等の保有割合によることとする。
①はいわゆる組合PEの判定に関する改正です。
現在、国内の組合契約の組合員である非居住者は、その組合契約事業を直接行っているものとされ(所得税基本通達164-7。法人税法では同様の規定はないものの、外国法人についても同様の取り扱いがなされるものと解されます。)、その組合事業から生ずる利益は日本において国内源泉所得として課税され(日本とその非居住者等の居住地国との租税条約により、その非居住者等が国内にPEを有しないこととされる場合を除きます。)、さらに居住地国でも課税されています。英米等では同様のケースは外国組合員に対して原則非課税としていることから、このPEの判定は海外から日本への投資を妨げる要因となっていました。
この度の改正により、次の要件を満たす外国組合員は国内に恒久的施設を有しない非居住者または外国法人に該当する者とみなされ、結果としてその外国組合員が投資組合から配分を受ける利益は日本において非課税となり、その利益に対する所得税の源泉徴収もなくなります。
(イ) その投資組合の有限責任組合員であること
(ロ) その投資組合の業務の執行として一定の行為を行なわないこと
(ハ) その投資組合の組合財産の持分割合として一定の方法により計算した割合が25%未満であること
(ニ) その投資組合の無責任組合員と特殊の関係のある者でないこと
(ホ) その投資組合の事業以外の事業に係る恒久的施設を有しないこと
なお、この適用を受けるためには所定の申告書を投資組合の無限責任組合員経由で所轄税務署長に提出する必要があります。
この改正は、平成21年4月1日以後の外国組合員の恒久的施設の有無の判定について適用される見込みです。
②は事業譲渡類似課税の判定に関する改正です。
現在、国内に恒久的施設を有しない非居住者または外国法人が民法組合等を通じて行なう株式等の譲渡についての事業譲渡類似課税の所有株数要件(25%以上)および譲渡株数要件(5%以上)の判定は組合単位で行なわれることとされており、組合員単独の持分が25%未満であっても株式等の譲渡益に対して課税される場合が生じていました。
この度の改正により、次の株式等の譲渡(保有期間が1年未満である株式等の譲渡および一定の破綻金融機関株式等の譲渡は除かれます。)の事業譲渡類似課税の判定は各組合員の保有割合によることとされます。
(イ) 上記①により国内に恒久的施設を有しないとみなされる外国組合員が投資組合を通じて行なう株式等の譲渡
(ロ) 国内に恒久的施設を有しない投資組合の外国組合員で有限責任組合員であるもの(投資組合の業務を執行しないものに限ります。)が投資組合を通じて行なう株式等の譲渡(その外国組合員ごとに計算した株式等の保有割合が25%未満である場合の譲渡に限ります。)
この改正は、平成21年4月1日以後に行なわれる株式等の譲渡について適用される見込みです。
海外投資家からは、日本の税制は諸外国と比して予見可能性に不安があり、後になって課税されるリスクがあって投資が難しいと言われています※2が、上記の改正によりその課税リスクが低減されれば対日投資が促進されることが期待されます。しかし、詳細が政令に委任されていることから、その実効性の判断については政令の改正内容を確認してからとなりそうです。
※1『平成21年度税制改正について』経済産業省 36頁
※2『平成21年度税制改正に関する経済産業省意見【概要】』14頁
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