信託損失の発生が見込まれる場合は法人の方が個人よりも有利
信託法の改正に伴い、平成19年度の税制改正において信託に係る損失が次のように取扱われることになっています。
1.法人の取扱い
<算式>
・信託損金額-信託益金額=信託損失額
・信託損失額-調整信託金額=××× ← 損金不算入
※調整信託金額とは、信託財産の帳簿価額を基礎として計算した金額をいいます。
損金の額に算入されなかった金額は、翌事業年度以後の信託利益額を限度として損金の額に算入す ることができます。
なお、信託財産に帰せられる損益が実質的に欠損とならないと見込まれるような場合には、信託損失額の全額が損金不算入となります。
2.個人の取扱い
① 不動産所得に損失がある場合
<算式>
・信託から生ずる必要経費-信託から生ずる総収入金額
=信託による損失の金額 ← 生じなかったものとみなす
生じなかったものとみなす金額は、不動産所得内通算及び損益通算はできないため、翌年以後に繰越すこともできません。
② 雑所得に損失がある場合
<算式>
・信託から生ずる必要経費-信託から生ずる総収入金額
=信託による損失の金額
雑所得となる場合の信託による損失の金額は、生じなかったものとみなす規定の適用はありませんので、雑所得となる他の利益から控除する雑所得内通算は可能となります。
ただし、雑所得内通算後、なお損失が残った場合については、雑所得の損失はそもそも損益通算はできないため、翌年以後に繰越すこともできません。
なお、信託の受益者については、信託における事業への関与度合いは希薄であることから、信託による事業に係る収益及び費用については雑所得として取扱われることになると考えられます。
3.法人及び個人の相違点
法人においては、信託に係る損失の金額が調整信託金額の範囲内であれば、損金の額に算入され、他の利益と相殺することができるのに対し、個人においては、信託に係る損失の金額は、生じなかったものとみなす又は雑所得の損失の金額として取扱われることになるため、損失の全額が切り捨てられる又は雑所得内通算後の損失が切り捨てられることになります。
また、法人においては、調整信託金額を超えて損金不算入となった信託に係る損失の金額は、翌事業年度以後の信託に係る利益と相殺することができるのに対し、個人においては、信託に係る損失の金額は、損失発生年において損失の全額が切り捨てられる又は雑所得内通算後の損失が切り捨てられることになるため、当然に翌年の利益と相殺することはできません。
このように、税目・所得区分等によって損失の取込み方法が異なり、税額の計算に大きく影響することが考えられるため、信託を設定する段階でどのように所得金額が計算されるか精査し、損失の取扱いを正しく把握することが必要となってくると言えます。
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