2008年7月30日

複数の受益者のうち一部が不存在又は不特定である受益者等課税信託

平成19年6月22日改正の法人税基本通達において、受益者等課税信託に関する通達として8つの通達が新設されました。その中の一つに「信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属」(法基通14-4-1)があります。

この通達により、受益者等の一部が不存在又は不特定である受益者等課税信託においては、受益者としての権利を現に有する受益者がその信託の信託財産に属する資産及び負債の全部を有し、かつ、その信託財産に帰せられる収益及び費用の全部が帰せられるものとみなされることが明らかになりました。

この取扱いは、課税漏れを防ぎたいという課税当局の意図であると考えられますが、担税力の観点からはアンバランスな面があると思われます。

具体例をあげて考えてみます。

委託者ではない法人A(有する権利の割合70%)及び法人B(同じく30%)を受益者とする信託を設定します。

ただし、Bについては、信託変更権限がなく、さらに受益者になれる条件として信託設定時に非上場会社であるBが上場することが必要になるものとします(停止条件)。なお、話が複雑にならないように、受益権は複層化されていないものとします。

まず、信託設定時においては現に存する受益者がAだけであり、Bはみなし受益者にも該当しないことから、Aは実際には70%の権利しか有していないにも関わらず、税務上その信託の信託財産に属する資産及び負債の100%相当を有するものとみなされます。

この時点の課税関係としては、法人税法22条第2項の資産の無償の譲受けとして、Aに対してはその100%相当分の受贈益課税がなされると思われます。そしてこのときには、Bに対する課税関係は生じないと思われます。

その後、Bが無事上場を果たし受益者となったとすると、信託の途中から新たな受益者が存することとなったことになります。

信託の計算では信託財産に属する資産及び負債のうちBが権利を有する30%部分並びにBが存することとなった時までにその信託に生じた収益及び費用のうちBが権利を有する30%部分はその存することとなった時まで信託財産に留保され、Bが存することとなった時においてBに帰属されるものと考えられます。

一方、この時点における課税関係ははっきりしていません。

すでに受益者等が存する信託について新たに受益者等が存するに至った場合の法人税法上の定めがないため、Aが資産負債を100%保有するとみなされた後にBが新たに受益者になった本件では、BがAから資産負債(留保された利益を含む)の30%の移転を受けたとみなさざるを得ないでしょう。

そうだとすると、Bには30%の経済的価値に対して受贈益課税がなされ、Aにはその分の寄附金課税がなされることになります。

もっとも、Bに着目すれば、Bは当初受益者でなかったものの停止条件を成就したことによって初めて受益者になったことから、本件状況は、受益者が存在しない信託において条件成就等で初めて受益者が存することになった状況に類似していると考えることができます。

もし、そうであるなら、受益者が存在しない法人課税信託と同様の取り扱いをすることが合理的であり、そのときは、資産及び負債は簿価によるAからBへの引き継ぎ、収益及び費用は益金及び損金に算入されない(法人税法64の3②、③)こととなり、新たな課税関係は発生しませんが、このように解する法令上の根拠はありません。

以上から、現在の法人税法では、Bが受益者となったときに、資産負債等30%の受贈益が課されますが、問題は、それまでに信託に留保されたBに帰属すべき利益に対する課税がAに対してなされることです。

すなわち、Aは本来自己に帰属する70%の利益に対する税金だけを納付すれば十分なはずなのに、Bが受益者となる以前は、100%の課税を受けるため、「有する権利の割合と納税とのアンバランス」(当初Bに帰属すべき30%の納税もAが納付を行っていることのアンバランス)が生じてしまっています。

それぞれの受益者の担税力との均衡を図るとすれば、Bが新たに受益者になった時においてBに対しその有する権利分の課税を行い、Aに対してはその有する権利を超えて課税された部分について更正の請求を認める、という方法が考えられますが、更正の請求事由に該当するとは考えにくく現実的ではなさそうです。

信託税制については上記のように課税が信託行為の意図からみて不合理であったり、取り扱いが不明確である部分があり、実務においては税効果を見極めて慎重な対応をしていく必要があります。

2008年7月30日(担当:中村 敬)

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