2008年4月30日

信託受益者が複数ある場合の譲渡損益計上について

新しい信託法が2007年9月30日に施行され、実務上の利用機会も増えてきています。税制は平成19年度税制改正で整備されたとされていますが、実際に利用してみると様々な疑問が出てきます。今回は信託受益者が複数ある場合の譲渡損益計上の論点について検討してみます。

平成19年度税制改正前の法人税法では、信託の受益者が2以上ある場合の取扱いについて規定されたものはありませんでした。改正後の法人税法施行令第15条第4項では「受益者が2以上ある場合における法人税法第12条第1項の規定の適用については、同項の信託の信託財産に属する資産及び負債の全部をそれぞれの受益者がその有する権利の内容に応じて有するものとし、当該信託財産に帰せられる収益及び費用の全部がそれぞれの受益者にその有する権利の内容に応じて帰せられるものとする。」とされています。従いまして各受益者が質的に均等な権利を有する旨が信託契約において規定されている場合には、各受益者は信託財産を共有しているのと同様に取り扱われるわけです。

そしてこのように複数の受益者が質的に均等な権利を有する場合には、「原則として他の受益者等が有することとなる部分について譲渡損益が計上されるものと考えられます(財務省ホームページ掲載の『平成19年度税制改正の解説』より)」。例えば甲さんと乙さんが、それぞれ有する同価値のA土地及びB土地を委託して受益者となる場合において、各人が質的に均等な受益権を有するときは、A土地とB土地の2分の1を交換譲渡したものして、各人に譲渡損益が計上されるということです。

よく分からないのは質的に均等でない受益権を取得する場合の取扱いです。同『平成19年度税制改正の解説』には、「例えばある受益者は信託財産に属する土地の底地権を有し、他の受益者は当該土地の借地権を有するものとみなされる場合もある」とあります。このように受益者の権利が委託した財産だけに帰属して、他の受益者等が有することとなる部分が発生しないときは、譲渡損益は発生しないとも考えられますが、明確な規定はありません。また、こうした質的に異なる受益権を設定した場合における期中処理の複雑さは想像に難くありません。

共有状態が引き起こす譲渡損益計上の問題は民法組合に対する現物出資において古くからある論点であり、有限責任事業組合制度発足時にも明確化が望まれた論点です。しかしながら現在に至るまで整備されておらず、実務家としては信託組成時に留意しておきたい点の一つといえます。

2008年4月30日(担当:平野 和俊)

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