2007年9月26日

「後継ぎ遺贈型の受益者連続信託」の代わりとして注目される「負担付遺贈」

資産家の方に多い悩みに、「自分の財産を誰に承継させるかを自分で決めたい、できれば、次の次に承継する人まで決めておきたい。」ということがあります。

例えば、①まずは長年連れ添った配偶者に財産1億を渡して生活の保障をし、配偶者が死んだ後は配偶者が費消した5千万を差し引いたその残り5千万を自立している長男にではなく病気がちの長女に渡したいという願いや、②自社株について次の事業承継者である長男に渡し、長男の後は優秀な次男の子供に引き継がせたいというものです。

従前は、このような願いをかなえる直接的な手段は存在しませんでしたが、信託法改正により、「後継ぎ遺贈型の受益者連続信託」を利用することが可能になり、ご本人の意思を長期にわたり実現することが可能になりました。
 
この「後継ぎ遺贈型の受益者連続信託」の課税関係はどのようになっているのでしょうか?先の①の例だと、配偶者は1億をいったんもらったものの、自分で使ったのは5千万であり、残りの5千万円は長女に残しています。この配偶者には1億円について相続税が課税されるのか、5千万円について相続税課税されるのかが問題となります。
 
実は、「後継ぎ遺贈型の受益者連続信託」の課税関係は、受益者連続型信託にかかる税制として整備されており、配偶者には1億円、次の長女には5千万円の相続税がかかることとされています(この点について、2007年7月31日のUAPレポート「相続税における信託課税の改正~平成19年度税制改正より」を参照下さい。)これは、一般に相続税では配偶者が相続した財産の価額に基づき相続税課税が行われ、その後配偶者が財産をいくら残そうと相続税の負担は変わらないという原則に基づくもので、他の相続財産と同様の課税とすることを目的としたものです。
 
すなわち、相続税は最初に配偶者に発生(課税価格は1億)し、次に長女に(課税価格5千万円)と2回発生することになります。
 
これに対し、ご本人が長女にまず財産を1億円遺贈して配偶者(長女にとっては母親)への一定期間の給付(5千万)を負担させるような、負担付遺贈の方法によって財産を移転する場合はどうでしょうか?
この場合には、相続税負担は1回のみとなります。 
ここで、負担付遺贈とは、遺言者(本人)が受遺者(長女)に一定の給付を目的とする債務を負担させた遺贈です。
 
負担付遺贈があった場合の課税関係は、まず長女に対し、相続開始の時に遺贈財産を遺贈により取得したものとして相続税が課税されますが、その課税価格は原則として負担がないものとした場合におけるその遺贈財産の価額(1億)からその負担が確実であると認められる範囲の金額(5千万)が控除されます(相基通11の2-7)。他方、配偶者に対しては、原則として、相続開始の時に負担の価額(5千万)を遺贈により取得したものとみなして相続税が課税されます(相基通9-11)。
 
信託を用いた場合と負担付遺贈の場合とでは、同様の経済的効果となるにもかかわらず、相続税の負担が2回に比して1回というように課税上の取扱いがアンバランスになっています。
 
上記の問題点は、社団法人信託協会の「平成20年度税制改正に関する要望」にも触れられていますが、資産家の方のご意思を実現するためには、負担付遺贈で実行されることが多くなるでしょう。税制が障害となって、せっかくの信託制度が利用されないということが予想されますが、すみやかな改正が検討されるべきだと思われます。

2007年9月26日(担当:後 宏治)

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