2007年4月25日

低金利時代に注意すべき営業権の評価

最近の税務トラブルとしてよく話題にのぼるのが、営業権の計上漏れを指摘されるということです。

例えば、同族間の株式の売買において低額譲渡を認定されるケースや、企業グループ内や親子会社間で無償による営業譲渡を行う場合に寄附金や受贈益を認定されるケースです。

営業権の評価は、一定の算式で計算した超過利益金額に基準年利率による複利年金原価率(10年)を乗じて求めますが、低金利である現在では、基準年利率が1.5%とされているため、ちょっとした優良会社なら計算上簡単に営業権が計上され、思わぬ課税が生じてしまうことがよく見られます。

営業権の意義およびそれが評価される理由は、課税上、次のように説明されています。すなわち、「営業権の意義については、消費税法又は法人税法等の税法には規定されていないため、一般に会計学や商法等で用いられている概念によることになるが、そこでいう営業権とは、のれん、しにせ権などをいい、いわゆる法律上の権利だけではなく、財産的価値のある事実関係を含むものであって、企業の長年にわたる営業活動を通じて醸成される伝統、社会的信用、名声、立地条件、営業上の秘訣、特殊の技術及び特別の取引関係の存在等並びにそれらの独占性等の多様な諸条件を総合したものであり、将来にわたり他の企業を上回る企業収益を獲得することができるという超過収益力をその内容とするものと解される。」(平13.12.21裁決、裁決事例集No.62 423頁)。

営業権とはよく分からない概念です。租税法には営業権にかかる定義がなく、会計学と会社法にその定義がゆだねられていますが、今回の会社法の改正では営業権の内容については特に定めを置かずその取扱いを公正なる会計慣行にゆだねているため、結局、会計上の営業権とは何か?という問題に帰着します。

この点、会計でもその概念が混乱しており、学者の意見も一致していないようです。すなわち、旧概念である「営業権」と、新概念である「のれん」の区分が明確になされていないと思われます。

以前は、「のれん」=「営業権」とされ、その内容には①企業結合等で生じた貸借差額としてののれんと、②個別に取得した商権等が含まれていました。上の裁決との関係では、①が超過収益力となり、②が法律上の権利として理解されます。 

ところで、企業結合会計が整備された現在では、「のれん」≠「営業権」として異なる概念として整理されているようです。すなわち、企業結合によって生じた営業権は連結調整勘定とともに貸借差額として「のれん」に含まれるとされ、営業権はそれ自体が個別に譲渡可能な資産だけをいうとされています(平成15年2月20日・企業会計審議会第25回第一部会議事録)。

そうだとすると、現在、財基通で評価対象とするとしていた超過収益力としての営業権は、もはや会計上存在せず、単に譲渡可能な法律上の商権のみが評価の対象になると理解されます。もしも、旧来の通り超過収益力について評価するのであれば、財基通に「のれん」の評価として新たな定めが必要となります。営業権については、財基通のよってたつ基盤が変化したことにより、その評価の基礎が揺らいでいるといえるでしょう。

以上の他、営業権を評価することについては多くの批判があります。

・国民に権利として根付いていない段階で、評価額を擬制することに無理がある。
・超過収益力はそれ自体で売買できないため、計算するまでその存在に気がつかず、予測可能性にかけ不意打ち課税になる場合がある。
・基準年利率の定め方自体で評価額が変わり、その時々に、営業権が発生したり発生しなかったりするのはおかしい。
・営業権が継続するとされる10年間の根拠が不明確。ある調査では、超過収益の継続期間は、自由職業3年、製造工業4年、小売業卸売業5年、独占企業6年、確定独占企業7年とされており、明らかに長すぎる。
・正の営業権は資産計上しながら負の営業権は負債控除しないこととの理論的な整合性がとれていない。
・連結グループ加入時に営業権を時価評価することは評価方法が困難であるとしてなされていないことや、繁盛している開業医が法人成りした場合に、自己創設のれんの現物出資があると認定されることはないこととのバランスがとれていない。
・割引率としてリスクフリーレートである基準年利率を用いるべきでなく、事業リスクを織り込んだ率を用いるべきである。

このように問題の多い営業権の評価ですが、課税庁の姿勢には変化が見られません。したがって、非上場株式の評価や営業譲渡の時には、課税上のリスクを避けるため、念には念を入れて財基通の営業権が計上されるかどうかを必ず計算してみることが必要です。

2007年4月25日(担当:後 宏治)

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