LLPに現物出資をした場合の課税関係(その2)
~会計処理と税務調整はどうするか?
UAPレポートVol.11の「LLPに現物出資をした場合の課税関係(その1)」のとおり、LLPに現物出資をした場合には、当該現物出資財産のうち、その出資をした者の持分以外の部分(=他の組合員の出資持分に対応する部分)を、他の組合員に譲渡したことになると考えられます。
この場合の会計処理の方法として、自己持分・他人持分を区別せずに現物出資財産の全部を時価で譲渡したものとして損益を認識する「全部譲渡方式」と、他人持分に対応する部分のみを時価で譲渡したものとして損益を認識する「部分譲渡方式」が考えられますが、LLPの法律関係及び税務上の取扱いを考慮すると、部分譲渡方式のほうがより取引の実態を反映した適切な会計処理であると思われるため、以下では部分譲渡方式により、LLPに現物出資をした場合の各局面における会計処理と税務調整について検討してみます。
(1)現物出資時
1.組合員の会計処理
まず、組合員Xが時価200・簿価120の土地を現物出資し、組合員Yが現金200を出資した場合の、組合員Xの会計処理を検討します。
部分譲渡方式による会計処理にはさらに2つの案が考えられますが、いずれも譲渡益は他人持分に対応する40(=(200-120)×1/2 )しか計上しません。案1は組合員XのLLP持分の1/2を土地の簿価60(=120×1/2 )で評価し、残り1/2は土地の時価100(=200×1/2 )で評価しています。案2はLLP持分の全部を土地の時価200で評価したうえで、自己持分に対応する譲渡益40(=(200-120)×1/2 )を繰り延べています。繰延利益勘定は、LLP持分の評価勘定の性質を有しています。
部分譲渡方式は、会計処理と税務上の取扱いに整合性がありますので、案1と案2のいずれを採用しても税務上の別表調整は必要ありません。
2.LLPの会計処理
LLPのB/Sに計上される土地の金額は、組合員X分の簿価60(=120×1/2 )+ 組合員Y分の時価100(=200×1/2 )= 160です。案2の繰延利益勘定は、今度は出資金の評価勘定としての性質を有しています。
(2)LLPが現物出資財産を売却した場合
次に、組合員Xが現物出資した土地を、LLPが240で売却した場合の、LLP側の会計処理を考えてみます。
組合員Yに帰属する譲渡益は時価ベースで計算した20(=(240-200)×1/2 )ですが、組合員Xに帰属する譲渡益は簿価ベースで計算しますので、60(=(240-120)×1/2 )になります。その点で案2は、現物出資時に繰延べた組合員Xの自己持分に対応する譲渡益40が、LLP外部への売却時に実現するという流れが明確に表現されています。
この場合も(1)と同様に税務上の別表調整は必要ありません。ただし、出資財産の時価の比1:1(=200:200)が出資割合であると考えると、案1では出資割合と損益分配割合が異なっていますので、税務調査対策として、その割合が異なる根拠を説明する資料を作成しておくのが望ましいでしょう。また、案2では繰延利益が組合員Xのみに帰属する理由を記録しておいたほうがよいと思われます。
(3)現物出資資産が減価償却資産である場合
最後に、組合員Xが時価24,000・簿価20,000の建物(耐用年数40年)を現物出資し、組合員Yが現金24,000を出資した場合の、案1によるLLP側の会計処理を考えてみましょう。なお、出資が行われた計算期間において収入2,000が発生し、経費は現物出資財産(建物)の減価償却費のみと仮定します。
LLPのB/Sに計上される建物の金額は、組合員X分の簿価10,000(=20,000×1/2)+ 組合員Y分の時価12,000(=24,000×1/2)= 22,000です。組合員X分の減価償却費は簿価ベースで計算していますので、やはり他の例と同じく別表調整は必要ありません。また、(2)と同様に出資割合と損益分配割合が異なるため、疎明資料を用意しておいたほうがよいでしょう。
以上、LLPに現物出資をした場合の会計処理と税務調整について基本的な取引を検討してみましたが、組合員のなかに消費税の課税事業者と免税事業者がいる場合の会計処理など、複雑な事例になるとまだまだ不明な点が多く、実務的なLLP会計基準の公表が望まれるところです。
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