2005年8月 3日

事業体課税の基本的考え方が明らかに

~法人格基準から「所得」基準へ~

現行税制では株式会社等の事業体にはその利益に法人税を課し、課税後利益の配当につき構成員である個人株主には所得税課税を、法人株主には法人税課税を行っています(二段階課税といいます)。また、任意組合や匿名組合では、組合そのものは納税義務者にはなっておらず、構成員である組合員にのみ、分配された利益について法人税・所得税が課せられています。つまり、事業体である組合には課税がなされず、構成員にのみ課税がなされています(パス・スルー課税といいます)。

二段階課税がなされるか、パス・スルー課税がなされるかの判断は、現行税制上、原則として、法人格の有無によってなされています。すなわち、法人格があれば事業体に法人税を課し、法人格がなければパス・スルー課税がなされます。

ところが、日本版LLC(合同会社)や日本版LLP(有限責任事業組合)など、新しい事業体が創設され、法人格はあっても実態は組合であったりするなど、それらは株式会社と組合それぞれの良さを融合した新しい組織形態であるため、法人格基準により二段階課税を行うのになじみません。そこで、二段階課税とパス・スルー課税の線引きをどこで行うのかが議論されていました。

この問題につき、先日、税務大学校のHPに「事業体課税の理論と課題」という論文が掲載されました。この論文には、任意組合、匿名組合、人格のない社団等、信託、中小法人などにおいて、どのような理論に基づき、誰を納税義務者として、どのような方式で所得課税を行うべきかということについて、執筆教官の私見としながらも、基本的な考え方が明示されています。

その概要を一言で言えば、法人格基準から「所得」基準への転換です。すなわち、法人格の有無によって事業体に課税を行うのをやめ、事業体に「所得」が実質的に帰属していれば、事業体に課税を行い、そうでなければ、「所得」が帰属する構成員に課税(=パス・スルー課税)するという新しい枠組みへの転換です。

具体的には、次のステップで納税義務者を判定することになるようです。

1.「調整留保所得」を計算する。
「調整留保所得」とは、法人税の「所得」から交際費や寄付金といった社外流出項目を除き、各当事者に特有の留保項目を加除する調整を加えたもので、その事業体が「公正妥当な会計処理の基準」によりその事業から生ずる利益または損失の額を計算した場合のその利益または損失とほとんど同じものであるとされています。

2.「調整留保所得」の帰属により、納税義務者を判定する。
事業に関する契約において、その事業に関する利益と損失のすべてが構成員等に分配されまたは負担されることとされている場合には、「調整留保所得」は事業体には帰属せず、その構成員等に帰属することとなり、その事業体においては、法人税課税は行わず、構成員等を納税義務者として所得税課税または法人税課税を行うこととされています。

このように、新しい枠組みでは、「調整留保所得」が誰に帰属するかによって、二段階課税かパス・スルー課税かを決定します。

この新しい枠組みを基本に、現行税制が見直され、新しい税体系が構築されるかもしれません。場合によれば、日本版LLP・LLCのみならず、任意組合、匿名組合、中小法人等の課税関係も劇的に変更される可能性があります。

特に、現在大法人と同じように法人税課税がなされている中小法人については、その多くの実態が、「代表者の個人事業に近く、その利益と損失は、実質的には、代表者に帰属すると考えられるものが少なくない」ため、「代表者の個人事業としての性格が強いものについては、代表者の個人事業として課税するか又はそれと同様の課税となるような仕組みとすることを考慮するべき」であるとされていることが注目されます。

この指摘の通りに税制が改正されれば、わが国の中小法人の大部分について、法人税課税がなくなり、結果、オーナー経営者に対する所得税課税だけがなされることになってしまいます。このことのみをもって納税者に有利・不利の判断はできませんが、歴史的な変更になることだけは確かです。会計ビック・バンの後には税務ビック・バンが待っているのかもしれません。

2005年8月3日(担当:後 宏治)

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