取引相場のない株式を少数株主から配当還元価額で購入したオーナーについて一時所得を認定した事例(裁決事例集第66集155頁;平15.11.20裁決より)
取引相場のない株式を売買するときにその価額をいくらにすればよいのか、これは会計・税務の実務家にとって判断に苦しむ問題の一つです。特に同族株主と同族株主以外の株主の間で売買される場合には売主の時価と買主の時価が異なることもあり一筋縄ではいきません。ただ現実的には、旧額面価額や配当還元価額程度で売買しても税務上トラブルになることは僅かであったといえます。しかし、このような同族間取引ではない場合において、その株式の純資産価額と実際の取引価額との差額を経済的利益として享受したものと認め、一時所得を認定した事例が国税不服審判所から公表されています。
所得税法において収入金額とすべき経済的利益の額には、物品その他の資産の譲渡を無償又は低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額又はその価額とその対価の額との差額に相当する利益が含まれることとされています(所法36、所基通36-15)。また、法人からの贈与により取得する金品は一時所得に該当する(所基通34-1)とされていることから、法人から資産を低い対価で受けたことによる経済的利益は一時所得に該当することになります。本事例においては、E社の代表取締役(E社の株式を同族で94%超保有)が、E社の株式を少数株主である第三者(法人)から旧額面価額で取得したことに対し、当該株式の純資産価額(財産評価基本通達に基づく原則的評価額)と旧額面価額(配当還元価額と同額)の差額を経済的利益として課税が行われたものです。
裁決によると取引相場のない株式の時価は「財産評価通達178(取引相場のない株式の評価上の区分)以下の例により算定した価額とするのが相当である」とされ、E社の代表取締役は同族株主に該当するため、原則的評価額によって評価することとなるとされています。しかし、現実的には同族株主が持株会や取引先などの少数株主から株式を旧額面価額又は配当還元価額程度で取得する取引は頻繁に行われており、なぜ本事例だけが特に課税されなくてはならなかったのか疑問が残ります。
取引相場のない株式を税法や通達で規定する価額以外の価額で取引すれば、必ず課税がされるというわけではありませんが、その場合でも、その成立した取引価額が「純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して決定された価額(財団法人大蔵財務協会『所得税基本通達逐条解説』p579)」であることを証明できるようにしておくような慎重さが必要だと考えられます。
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