2005年5月31日

新会社法「相続人等に対する売渡しの請求」と事業承継税制

平成18年4月に施行が確実になっている新会社法において、事業承継に有用な仕組みとして、「相続人等に対する売渡しの請求」が注目されています。

この規定によると、定款で定めることを条件に、相続によって譲渡制限が付されている株式を取得した者に対し、その株式を発行会社に売り渡すことを請求することができることになります(新会社法第174条)。

現行商法では、会社にとって好ましくない者が相続人となってしまうと、その者を排除することができません。なぜなら、現行商法では、譲渡制限付株式の移転につき、取締役会の承認を要求し移転を制限することができる場合とは、「譲渡」に限られ、相続や合併のような包括承継については、その移転を制限することはできないと解されているからです。相続が繰り返されて株式が分散し、その上対立している親族に相続が発生すると、好ましくない者が相続により株主になることを防ぎようがなく、事業承継の大きな障害となっています。

新会社法では、定款にその旨を定めることにより、会社に好ましくない者から強制的に株式を買い取ることができるようになります。

この新制度の最大のメリットは、以上のように、会社主導により、新しい承継者の支配を完全にすることが可能になることです。

また、この新制度には、税務上のメリットが用意されています。

一つ目の税務上のメリットとして、相続税の申告期限より3年以内に譲渡すれば、みなし配当課税がなされない点があげられます。すなわち、税務の原則では、会社に株式を売却した場合、売却金額のうち資本等の額を超える部分は「配当」とみなされて、売り主に高額の税負担(最高50%の超過累進課税)が生ずることになるのですが、申告期限から3年以内に相続した株式を会社に売却すれば、みなし配当課税が行われません。その結果、売却全額が譲渡収入金額と見なされ、20%の譲渡益低率課税で課税が終了します。

その他に、二つ目のメリットには、相続税の取得費加算制度の適用が可能となることがあります。取得費加算制度の適用により、その相続株式に係る相続税相当額は、株式売却の取得費として加算し控除され、税負担がさらに軽くなります。

このように、新会社法を適用して、相続した反対株主を会社主導で排除しても、相続株式を換金する税務上のメリットが用意されているため、反対株主の感情的なしこりを解きほどしやすくなります。

「相続人等に対する売渡しの請求」制度は、税務上のメリットも大きいため、事業承継の大きな手段としての活用が期待されています。

2005年5月31日(担当:後 宏治)

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