SPC(営業者)が所有する含み益不動産を対象に匿名組合出資を受け入れた場合の課税関係
典型的なYK‐TK方式による不動産流動化案件では、SPCにおけるプロジェクト必要資金額からデット調達額を差し引いた金額が自動的にエクイティ必要額(匿名組合出資金額)として算定されます。ところが営業者が従来から所有する含み益不動産を対象に匿名組合出資を受け入れる場合には、自動的にはエクイティ必要額が算定されません。特に親子会社間等の特殊関係者間では、いくらでも構わないとして過少出資になりがちです。そしてこの場合でも一般的な匿名組合契約と同様に不動産事業に係るすべての損益を分配すると契約しています。問題ないのでしょうか?
例えば時価10億円(簿価1億円)の不動産を所有する子会社SPCを営業者として、親会社が匿名組合出資をします。不動産簿価1億円に合わせて匿名組合出資は1億円とし、損益はすべて親会社に分配されると契約します。こうすると親会社は1億円の投資で毎年時価10億円の不動産からインカムゲイン全部を受け取り、売却時にはキャピタルゲイン全部を受け取れます。しかしこれは常識的に考えてもおかしな契約内容です。第三者間であれば時価10億円で匿名組合出資を受け入れるはずですから、税務上このような場合にはSPCにおける損益分配額の9割相当額が寄付金認定されると考えられます。
つまり匿名組合出資金額がその対象となる資産の時価相当額と乖離した場合には、寄付金の課税関係が発生すると考えられます。このような課税関係は、簿価の低い不動産だけを所有する会社をM&Aにより購入して、その会社に匿名組合出資をする場合や、SPCを適格現物出資等で設立して匿名組合出資をする場合に発生する可能性があります。
寄付金認定を避けるために時価10億円により匿名組合出資を受け入れた場合における匿名組合の貸借対照表は、(借方)不動産10億円(貸方)出資金10億円となります。つまり営業者の簿価とは離れたところで匿名組合の不動産簿価を計上することになります。
ところが平成4年9月16日付裁決によると「匿名組合事業に係る減価償却費の額は営業者の確定決算で損金経理した金額でなければならない」とされており、匿名組合が簿価10億円をベースに減価償却費を計上することは難しいと考えられています。つまり営業者が確定決算で簿価1億円をベースに損金経理した減価償却費しか計上できないということになります。逆に含み損不動産に匿名組合出資をした場合はどうなるのでしょうか?匿名組合における不動産簿価以上の金額をベースに減価償却費を計上できることになります。
匿名組合の基本的な課税関係は、法人税基本通達及び所得税基本通達において若干の規定が定められているに過ぎずはっきりしない点が多々あります。上記は私見に過ぎませんが、他に合理的な考え方も見当たりません。実務家としては、不動産取得と匿名組合出資は極力同時履行でお願いしたいものです。
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